力ずくであり金を奪われた経験があるのは20歳のリオだ。2023年5月、路上で合意した男性と近くのホテルの部屋に入ると、相手の態度が豹変した。金額をめぐって「約束が違う。金を返せ」と言われ、怖くなって財布を出した。さっと手が伸びてきて財布を取られ、中に入っていた13万円を抜き取られた。男は走って外に逃げた。リオは慌ててその後を追ったが、すぐに見失った。13万円は、ネットカフェ暮らしのリオの全財産だった。
警察には届け出なかった。無駄だと思ったし、相手との関係を聞かれて何と答えればいいのか分からなかったからだ。泣き寝入りするしかなかった。
「そもそも、見ず知らずの男性と密室で過ごすことが大きなリスクです」と警視庁の担当者は言う。「金をだまし取られたり、暴力を振るわれたり。性病感染や予期せぬ妊娠もしかり。身の安全を損なう危険がたくさんある。自分自身のためにも、路上での売春はやってほしくないんです」
ネットを避けて路上で
彼女たちは、なぜそうしたリスクに身をさらしてまで、客を取るのだろう。ツイッター(現X)やマッチングアプリを使い、「パパ活」「交援」と称して客を募る女性も少なくない。路上では見知らぬ男から暴言や暴力を受けることもあるし、取り締まられるリスクも高まる。それでも、彼女たちの多くは路上に立つ方を選ぶ。
彼女たちに話を聞くと、「そっち(SNS)の方が怖くない?」と言う。16歳で援助交際を始めたサユリもその一人だ。もともとはツイッターに隠語を書き込み、客を募っていた。だが、常に不安があった。「待ち合わせ場所が駅や路上ならまだいいけど、ネットだと、いきなり家やホテルに呼ぶ人がいて怖かった」。その点、路上で対面すれば、直感的に危ないと思った相手は拒むことができる。
もう一つの理由は、「ネットはバックレが多い」というものだ。連絡なしのキャンセルだ。何往復もメッセージのやり取りをした末に待ち合わせ場所へ出向くと、相手はいない。男性が途中で行く気を失ったり、離れたところから見て好みでなかったため声をかけなかったりするのだろう。女性側からすれば、交通費や時間が削られ、徒労に終わる。2年前から路上売春を続ける20代のカナエは、何度かそんな目に遭って、ネットでの相手探しをやめた。「それに、あれ結構面倒くさいんだよね」
もっとも、ネット上で売春相手を探す書き込みは今も簡単に見つけられる。
「今から歌舞伎で2~会える方」「歌舞伎で生5 #P活 #交縁」
分かる人には通じるハッシュタグを付け、金額を提示した投稿は無数にある。中には「大久保公園に立ちます。呼ばれればそっち行きます」と、ネットと路上の両方を用いる女性もいる。
買う側にとっても、路上で女の子と対面することで得られる安心感はあるようだ。
ある晩、何人かの女の子に話しかけていた男性に声をかけた。少し気まずそうだったが、名前や職業はNGという条件で話を聞けた。30代だった。