「(自分は)レギュラーでもない」と話すのは、昨季、ゴールデングラブ賞とベストナインに選出される活躍を見せた甲斐拓也捕手。「今年は自分がやる。そのために頑張らないと。ケガ人が出たからではない。そうじゃなくても、そのつもりでやってきた」と優しい甲斐捕手がスナイパーのようなキリッとした顔つきで話します。彼いわく“真のレギュラー”とは、「1試合でも多くマスクを被り、チームを勝ちに導く信頼されるキャッチャー」。周りの状況は気にしません。自分のやるべきことを黙々とやり続ける努力人です。

甲斐捕手も見習う男とは……

 その甲斐捕手に「僕も見習うべきところがある」と言わせるのが、育成4年目で野球人生最大のチャンスに直面している堀内汰門捕手です。

3月20日、中日とのオープン戦 堀内汰門(左)と東浜巨

 先日のコラムで書かせて頂いたとおり、ホークスが抱える課題の一つである“捕手危機”。ただ、チームにとってはピンチですが、若手捕手にとってはまたとないチャンスです。そんな中、育成捕手として1軍オープン戦に出場し、必死にアピールを続けてきたのが堀内捕手でした。

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 しかし、野球の神様は簡単には与えてくれません。3月6日のオープン戦で、右手親指IP関節脱臼。プロ野球の世界、どんなに努力していても、タイミングに恵まれなかったり、運に見放されると、そのまま野球人生を終えてしまう……という話も耳にしたことがありました。堀内捕手の挑戦は、この千載一遇のチャンスを逃し、ここで終わってしまうのではないか……一瞬、そんな不安が頭をよぎりました。

「だって、汰門頑張っとるやん」

 だけど、そんな不安はすぐに消えました。脱臼から4日後には、患部をテーピングで固定した状態でキャッチボール、打撃練習を再開。「大丈夫です! もう病院行ってないんで!」と悪い診断は受け入れないぞと言わんばかりの気持ちで足早に回復へと向かいます。1軍オープン戦で、リハビリ施設のある筑後を訪れていた達川ヘッドコーチも、「汰門! 指はどうだ!? ワシも(現役時代からの古傷を見せて)これでやりよった。やれるんだよ!」と鼓舞していました。吉鶴バッテリーコーチは、「今逃したらチャンスはもうないぞ。今は無理してでも、痛み止め飲んででもやれ」と愛の鞭。吉鶴コーチも成長を認めているからこそ、怪我からの早期復帰を促しました。

 ただ、堀内捕手は言われなくともそのつもりでした。13日の教育リーグでスタメンマスクを被り、スピード実戦復帰。「指のことは意識してやっていません。もう自分の中では完全に治ったと思っています」と覚悟に満ちた表情。試合後には、特守を受けていました。それも、堀内捕手1人に対し、コーチやブルペン捕手ら4人がかりで。みんなが堀内捕手のイチ早い復帰を全力サポートしているのです。猪本2軍ブルペン捕手も「だって、汰門頑張っとるやん」と沁みるような表情で一言。堀内捕手の周りは、温かさに溢れています。