「度を越えるルールや体質を目撃したことは」と問われると、木場氏は「度を越えるルール……」とつぶやきながら首を傾げ、しばらく考えるようなそぶりを見せた。そうして、舞台装置の安全面について強い指導があったと回答した。
しかしここまでの会見の流れを考えれば「度を越えるルール」が安全面の話ではなく、厳しい上下関係やハラスメントの有無を聞いていることは明白である。
それでも木場氏は、質問する記者たちに視線を合わせることなく、「安全指導」の話でお茶を濁そうとしたことになる。これは劇団に受け継がれてきた厳しいルールや指導に言及しないための、話のすり替えとしか考えられない。
いじめやパワハラは指導という言葉に代わり、いじめによるストレスは故人が過重労働で追い詰められたことによる心理的負荷になったように、言い方を変え、論点をずらし、問題点をぼやかし、見て見ぬふりというより首を傾げて惚けて終わりにする。
「外部漏らし」という言葉がでると途端に厳しい表情に
会見の中で、木場氏と村上氏の表情が大きく変わったのが「外部漏らし」という言葉が出た時だった。「外部漏らし」とは、劇団内で起きたことを外部に漏らしてはいけないという宝塚の暗黙のルールを指す。もし内部で起きたことが外に漏れた場合は、徹底的な犯人探しが始まるといわれている。
そのような空気がある劇団内で行われたヒアリングで、劇団員たちが初めて話す相手に真実を話せるかどうかは疑問がある。しかしそれを問われた木場氏は、戸惑ったような表情を見せながら「かなり(本音が)出ていると思う」と回答。
それでも外部漏らしという言葉が出ると、木場氏は目を見開くように額をあげて深いシワを寄せ、村上氏も額と眉間にシワを寄せて厳しい表情になった。歌劇団としてあってはならないことに対する不快感と、記者たちに問い詰められることへの嫌悪感や警戒感が見て取れる。
宝塚の運営側と遺族側との面談がいまだに実現していないことについて、「(遺族側からの)拒否があったのか」と聞かれると、村上氏は慌てて「拒否ということはない」と答え、必死な様子で表情を歪め、大きく頷きながら「まだその時期に至っていない」と続けた。
だが遺族側は再検証を求めており、歌劇団側が証拠の捏造を繰り返してきたとも主張している。それについての見解を問われると「我々が隠ぺいしているとか、報告することを歪めるとかは一切ございません」と、前のめりになりながら語気を荒げて否定した。
他の場面では「これですべて終わりとは思っていない」「把握していない、認識していないこともあろうかと」と殊勝な発言も見せていたが、今回の「いじめやパワハラはなかった」という報告書の内容で押し切るつもりということだろう。