2020年5月23日に亡くなったレスラーの木村花さん。彼女が引退する先輩レスラー・石野さんに送った「最後の言葉」とは? 彼女の才能を間近で感じ、家族ぐるみの付き合いをしていた元女子プロレスラー・石野結さんの著書『元悪役女子プロレスラー、男になる!』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

筆者が一番好きな木村花さんとの2ショット(写真:筆者提供)

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自分らしく生きることを教えられる

 葬儀が終わって、花を見送って……。

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 そこからの1か月間は放心状態で、何も手につきませんでした。

 ふとしたときに、花の思い出が蘇ってくるんですよね。

 ああ、あのときはあんなことを言っていたな、とか、あんな表情をしていたなとか。引退する1か月前、自分は花と1分間のシングルマッチをしました。当時のスターダムでは引退したり、海外の団体に移籍する選手を全員掛けのシングルマッチ(選手全員と一人ずつ試合をする)をするのが恒例になっていたんです。

 当時、自分と花は袂をわかっていて、それぞれ別々のユニットでリーダーを務めていました。1分間のシングルマッチでも、花は感情剥き出しにガンガンぶつかってきてくれたのですが、試合が終わったとき、自分にだけ聞こえる声で「大好きでした。ありがとうございました」って言ってくれたんですよね。そういう花とのいい思い出が、次々と思い出されて、つらかったです。

「生きるってなんだろう?」「なんのために生きるのだろう?」

 気が付くと、そんなことばかり考えていて精神状態はどん底でした。

 でも、ある日、気が付いたんです。

 自分がこんな風に悩んだり、苦しんだりして生きることを、花は望んでいないんじゃないかって。

 花のためにも、これからは後悔のない生き方をすべきなんじゃないかって。

 その後悔しない生き方とは、“自分らしく生きること”。

 “ありのままの自分”でいることだって、気が付いたんです。

 これまでの自分は、周りの人だけじゃなく、自分自身も欺いて生きてきました。自分のことは男だと思っているけれど、身体は女だから女として振舞う。それが仕方のないことで、当たり前なんだと自分に言い聞かせてきました。

 でも、そんなウソはもう止めようと思ったんです。自分は男。だから、心だけではなく、身体も戸籍も男として生きる。

 そうして、男になるための方法を探し始めたんです。