敗戦から2年近くしか経ていない1947年の日本をゴジラが襲う映画「ゴジラ-1.0」は、「シン・ゴジラ」(2016年)とはまったく違う角度から、山崎貴監督がゴジラ映画の可能性の限界に挑んだ野心作だ。なぜ、山崎監督は敗戦直後の日本を舞台にしたのか。そして、なぜ米国や米軍をほとんど登場させず、ゴジラと旧日本軍人・兵器との戦いを描いたのか――。朝日新聞記者の太田啓之氏がその謎に迫った。
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劇中で鍵となる「震電」
「ゴジラ-1.0」を公開初日に観て帰宅するやいなや、物置にストックしてあった「震電」の内部構造を再現した1/48プラモデルと、「震電」関連の資料をひっぱり出した。映画の中での震電の大活躍にオタク心が燃え上がり、さっそく「対ゴジラ戦仕様」へと改造することを決意したからだ。
劇中、ゴジラを倒すことに執念を燃やす元特攻パイロット・敷島浩一(演・神木隆之介)の「ゴジラを銃撃して怒らせ、誘導するための戦闘機が欲しい」という求めに応じて探し出されたのが、敗戦から2年近くを倉庫の中で空しく過ごし、朽ち果てかけていた「震電」だった。
ミリタリーマニアやモデラーの間で、震電の人気は極めて高い。機体前部に揚力を発揮する小翼を設け、胴体の後ろにプロペラを装備した「先尾翼機(当時の日本では前翼機と呼ばれた)」だが、鋭くとがった機首や後退角のついた主翼はジェット機のような洗練されたシルエットだ。観客にとっても、零戦とはまったく異なる前衛的なフォルムの日本機が画面で飛翔するのは新鮮な体験だろう。
しかし、正直なところ、震電が物語中で最初に登場した時には「この機種選択は果たして、対ゴジラ戦用の兵器として妥当なのか」と首を傾げざるを得なかった。