まずは協議離婚を目指し、それが無理なら調停や裁判になるという一般的な見通しを話すと、A子さんは「夫はとても弁が立つ人なので、先生も言い負かされてしまうかもしれません。調停委員や裁判官も夫に説得されてしまうかも……」と心配していました。
A子さんが録音していた暴言を聞くと、どれも音が割れるほどの金切り声で怒鳴っている音声ばかりでした。夫は泣きながら謝るA子さんに長々と叫んでいるものの、内容はなく同じ話を繰り返すばかりで、最後は夫が飽きて「もういい!」と言い捨てて終わっています。
対面では何も言えない夫
離婚を希望するA子さんから依頼を受けて、夫に受任したことと、まずは離婚について話し合いたいという旨を連絡すると、夫から、私の事務所に来ると返事がありました。
約束の日になって、夫が事務所にやってきました。とても大人しそうで、弁護士である私と対面してもずっと下を向いていて、A子さんから聞いていた話とは別人のようです。
暴言がつらいので離婚を望んでいるというA子さんの希望を伝えると、ますます下を向いて、「暴力や不倫をしたわけではないので……」と言います。録音があるのでと言うと、夫は何も答えなくなってしまいました。
結局夫は離婚をするともしないとも答えないまま、帰っていきました。
そこからはメールで離婚協議をすることになったのですが、今度は夫は非常に長いメールを送ってくるようになりました。
こちらが「こういった暴言がつらかった」と書くと、それら一つひとつに対して、「○月○日の妻の発言はこのような理由で非常識だったため、指導を行ったに過ぎない」など、数千字にわたって反論を書いてきます。事務所に来た時の態度とは別人のようです。
とはいえ、自分は悪くないと述べるばかりで、離婚をするともしないとも書いてきません。話し合いが進まないため、これ以上の離婚協議はできないと判断して、離婚調停を提起しました。
夫は弁護士を立てずに一人で調停にやってくるのですが、調停委員に対してもやはり下を向いているだけで、ほぼ何も話せないそうです。