流産したことで恋人との愛情にひびが入ることを恐れ…
夫の死によって、米軍当局から500万円の手当を受けた佳代子は、それまで住んでいた土地家屋を売却し、現住所であるY市に家屋を購入して転居したのだった。
そして間もなく、佳代子は弁護士の横山新三郎と知り合い、結婚を約束して同棲を始める。じつはここで起きた出来事が、彼女の今回の犯行にいたる動機となっていた。
佳代子が横山と同棲を始めて間もなく、医師に妊娠を知らされ、そのことをともに喜びあっていたのだが、3カ月後に佳代子は流産してしまう。子供の誕生を喜んでいる横山に対し、事実を告げれば愛情にひびが入ってしまうのではないかと、佳代子は恐れた。そこで、なんらかの方法で嬰児を入手し、これを自分が産んだことにしようと考えて犯行に及んだのである。
母親は他人の子供を連れ去るつもりではないかと思っていた
犯行を計画してからの佳代子は、自分が妊娠しているように偽り、妊娠の証明書を作らせて母子手帳の交付を受け、乳児用品等を購入するなど準備をしていた。そして実母のトメに、子供を貰いに行くからと嘘を言って、一緒にYホテルに投宿したのだった。
一方で、母のトメは、娘の佳代子が毎日あちこち出歩いて、あてもなく各病院を物色している状況から、もしかして他人の子供を連れ去るつもりではないかと思っていたという。しかし、そう考える娘が哀れで、なにかと助言をするようになり、彼女が誘拐を実行してからは、その逃走を助けて一緒に行動していたのだった。
当時、この事件は大きく報じられ、数多くの有力な情報が寄せられた。逮捕された母娘ふたりは、未成年者略取罪で地方検察庁に送致されるも、その後、起訴猶予処分が下されている。