女性指揮官の利点としては三菱重工製V10ディーゼル1500馬力(90式戦車、10式戦車はV8 1200馬力)のエンジン音よりもよく通る高音で「小隊! 撃ち方始め!」など命令が聞き取りやすいことぐらいで、他は一切ハンデなし。
大地を揺るがす戦車の鼓動、飛び交う実弾の下、轟く砲音(つつおと)に包まれ5日にわたって繰り広げられた最強の戦車部隊を決める戦いは、地元第72戦車連隊が小隊の部も中隊の部もダブルで制した。これで第72戦車連隊は4年連続でこの競技会を制したのである。
なぜ自衛隊は“戦車の運動会”みたいな訓練を行なうのか
しかしである。なんで自衛隊は5日も費やし、こないな戦車の運動会みたいな訓練をやっちょるんやろと。弾も実弾や。一発でロシア軍の主力戦車T-72まで鉄くずにしてしまう徹甲弾を何百発や。安うないで。この訓練の目的はや、各部隊が競争意識をかきたて射撃精度や戦車操縦技術を高め、練度を維持するということがもちろんある。
さらにそれを我々に公開し、その実力を垣間見せることで敵の侵略意図を挫く意味もあるのである。想像してみい! あのプーチン大統領でさえ、ウクライナの反撃がここまで強く、そのためこの戦争がここまで長引くと予想できたら、昨年の2月に侵略に踏み切らんかったはずである。
そんな今も日本の領土をかすめとろうと虎視眈々と狙う敵国に、北海道をいや日本を再び侵略しようもんなら、この北部方面隊がお相手するぞと、その精強さを見せつける一面もあるのである。彼ら、彼女らはそういう意味で戦争するための訓練をしているのでなく、戦争をさける、いやさせないために訓練を続けているのである。毎日ずうっと。
それでも、実戦でこの第72戦車連隊がその強さを発揮するとこなんぞは見たくもない。敵はロシア軍になるのか中国人民解放軍なのか、はたまたその連合軍になるのか予想できんが、いくら戦車射撃競技会で無敵の第72戦車連隊でもいったん実戦とならば無傷で済まぬ。不肖・宮嶋、昨年のロシア軍のウクライナ侵攻では首都キーウ近郊で、またハルキウ近郊でおびただしい数の破壊されたロシア軍戦車や逃げ遅れたロシア兵の亡骸も見てきた。その多くがはNATO加盟国がウクライナに供与した個人携帯型対戦車ミサイル「ジャベリン」の餌食になったのである。その残骸は歴戦の戦車兵の猛者が見ても二度と戦車に乗りたくなくなるほどである。
それでも戦車は今も陸上自衛官のみならず、子供らのも憧れの的である。そんな戦車部隊の指揮を女性が執るようになったのである。これで戦場での男の聖域はもはや無くなった。もちろん我らが故郷が戦場にならんにこしたことはないが。