あだん堂 脱線した瞬間は、まだ直立に近かった気がします。脱線してからもブレーキが掛かっていて、「ギギー」って金属音が響いていて。そこから少し傾いて、進行方向の左側に立っていた人や座ってた人たちが進行方向の右側、要するに下側に転げ落ちてきたんです。

窓の方には黒い煙と大きな炎…死を覚悟した

ーーあだん堂さんが座っていた側に、乗客がドドッと落ちてきたと。

あだん堂 人が落ちてきて、折り重なってる状態。私は座った状態をキープしていて、その上に人がドドーッと。急ブレーキも掛かっている最中だから、その圧も加わって人の重みもすごいんですよ。ポールや人にぶつかりながら、窓枠と座席にしがみついて転がらないようにして。脱線してブレーキが掛かっていたのは数秒だったんでしょうけど、その間に車内は一変ですよね。

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 で、車体が傾いた状態で止まって。その頃にはすべての乗客が私の座っていた席側に落ちてきていて、その重みで「ギシギシ」と車体が軋むような音を立てていました。後から知りましたが、1両目って、乗車していた人が三十何人しか乗ってなかったんですよね。おかげで、私の上に乗っかっていた人は2人か3人くらいで済みました。

 誰かが「爆発するぞ!」と叫ぶので、上側になった窓のほうを見上げたら黒い煙と大きな炎が上がっていて「なんで?」って。

ーー映画に集中していたから、トラックにぶつかったことがわからなかった。

あだん堂 そうです。今思えば、運転席の真後ろに立っていた人たちは、運転席の窓ガラスから踏切内の前方にトラックが立ち往生しているのを見ていたから後ろに逃げていった。けど、私はトラックと衝突したことを知らないもんだから、「なぜガソリンを積んでいないはずの電車が燃えているんだ?」「なにかを巻き込んだのか?」「爆発する要素ないはずじゃない?」とか、いろいろ考えて。

 で、「ああ、終わった。閉じ込められたまま、焼き死ぬのかな」って覚悟しました。「これが走馬灯か」ってのも、やってきましたし。

 

泣いてる人もいたが、誰も諦めていなかった

ーー走馬灯って、どんな感じなのでしょう。

あだん堂 私の場合ですけど、いろんな記憶と後悔が押し寄せてくる感じですね。「飲もうって言ったけど、そのまま1年会ってない人いるな」とか「こんなことになるなら、夜中に帰ってきて寝たままだったパートナーを起こして話しておけばよかったな」とか。

 一瞬で、グワーッと頭によぎる。親の顔とか故郷の八丈島のことは浮かんだけど、幼少時から今までが早送りで再生されるなんてことはなかったです。

ーーその日の午後に顧客と会う予定だったそうですけど、気になっていたりは?

あだん堂 それが気になっていました。「今日、行けなくなっちゃったな。お客さんに謝らないと」なんて思って、その後すぐに「仕事のこと考えてる場合じゃない」とはなるんですけど、また考えちゃう。