ーー出られた瞬間は安堵感が?

あだん堂 いや、まだまだ全然。とにかく線路上から離れたかったので、乗り越えられそうなフェンスを探しながら30メートルくらい走って。すでに駅員らしき京急の人が線路に出ていて、「離れて!」って叫んで誘導してました。

「電車からだいぶ離れたな」と思って、ほんの一瞬だけ振り返ったんです。そうしたら、三田駅で乗った電車と同じだとは思えない姿の車両が目に飛び込んできた。

ADVERTISEMENT

 運転席はグシャグシャ、車体はベコベコになって大きく傾いていて、その隣でなにかが燃えて真っ赤な炎と真っ黒い煙があがってる。車内に閉じ込められていたときは状況がわからなかったけど、その時点でようやく自分がどういったことに遭遇していたのかがわかって。これは大変なことだと。

 涙がブワッと出てきて、「ああ……あ……」と声にならない声をあげて、そこで初めて泣きました。

「おお~、マジでヤバかった~」と言って仕事に行く人も

ーー線路からは出られましたか。

あだん堂 京急の方が「線路から出るなら、ここで!」と誘導してくれて、そこから飛び降りました。180センチか190センチくらいのフェンスだったんですけど、下で30代くらいの男性が「大丈夫か?!」と受け止めてくれて。

 線路から出られたけど、泣き叫んで道路の真ん中に座り込んじゃったんですよ。で、その方が「そこにいたら危ないよ」って、木の陰まで連れて行ってくれて。

 

ーー線路から道路に出た人たちは、一様にショックを受けた状態で?

あだん堂 「おお~、マジでヤバかった~。さあ、仕事行かなきゃ!」なんて言って、スーツのほこりをパンパンってはらって足早に去っていく人もいました。意外とそういう方を数人見かけて、いま思うと「マジ?」って感じではあるんですけど。私は、すっかり腰が抜けちゃってパニクっていましたね。

 近所の人がだんだんと集まってきて、お茶のペットボトルをくれたり、バスタオルを掛けてくれる方もいて。別の近所の方が、道端に座り込んでいる私に「うちの前においで」って、花壇に座らせて背中をさすってくれて。「怖かったね。がんばったね。ここは大丈夫だから」と言われたら、ますます涙が出て止まらなくなっちゃって。

事故の数ヶ月前にパートナーの電話番号を暗記したばかりだった

ーーホッとしますね。

あだん堂 「まだ車両に人が残されてて、怪我したり、死んじゃったらどうしよう」と言って取り乱している私に「大丈夫、みんなきっと助かるよ」と励ましてくれてました。

 家にいるはずのパートナーに電話したんですけど、事故の数ヶ月前に「なにか災害があったら大変になるから、お互いの電話番号を覚えておこう」と言って暗記したばかりだったんですよ。

「覚えておいてよかった」とホッとすると同時に、「こんな早くに役に立つなんて」と思いましたね。ただ、手がブルブル震えちゃって、ちゃんと押せないんです。だから、何度も番号を押し直して。結局、電話が架かっても相手は出なかったんですけど。

写真=末永裕樹/文藝春秋