2019年9月5日、11時43分頃。京浜急行の下り快特電車が、神奈川新町の踏切内に侵入したトラックと衝突し、1両目から3両目までが脱線。トラック運転手が死亡し、電車の乗客乗員77名が負傷した。

 この京浜急行衝突脱線事故の事故車両1両目に乗車していた、フリー編集者のあだん堂ゆきさん(32)。

 事件から5年。彼女に、事故のショックによる心身の変調、PTSDと診断されてからの治療などについて、話を聞いた。(全3回の3回目/最初から読む)

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事故の後はお酒に溺れてしまう

ーー市のカウンセリングでは、どんなことを。

あだん堂 カウンセリングを受けたことで、頭のなかを整理する訓練にはなりましたね。不眠や音に対する過敏な反応、食欲の増減に関しては、薬の処方を勧められて。「これはPTSDです。心療内科に行ってください」と。カウンセリングではPTSDはカバーできないってことで、心療内科のクリニックにも通うよう言われました。

あだん堂ゆきさん

ーーカウンセリングや心療内科の治療を受けて、生活はいくらか落ち着いてきましたか。

あだん堂 いや、凶暴になっていったように思います。「シャーッ!」って、警戒してる獣みたいな感じでしたね。パートナーにも当たってたと思います。また何か事件に巻き込まれるかも、って緊張状態がずーっと続くから、ものすごく疲れるんですよね。

 お酒にも溺れました。元々お酒を楽しく飲む人間だったんですけど、事故の後は飲めなくなってしまって。けど、数週間経つと少しずつ飲めるようになって、気づけば溺れてました。部屋でパートナーの帰りをひとりで待つのに耐えられなくて、近くに住んでる友達と飲みに出掛けて、とことん飲む。

 処方された睡眠薬が効かなかったこともあるんですけど、酒を吐くほど飲むと寝れるんですよ。それもあって、飲んじゃう。昼夜問わず酔っぱらって感覚が麻痺していないと過ごせなくなっていた時期もありました。

電車だけでなく、乗り物やエレベーターが怖くなる

ーーパートナーは、なにも言わず?

あだん堂 ずっと寄り添ってくれました。酔い潰れて、ゲーゲー吐いても、一緒にいてくれて。初めて三日酔いってのを経験して、これはアル中寸前だなと。けど、クリニックにちゃんと通ううちに睡眠薬も効くようになって、だんだんと飲む量が減って。

ーークリニックでは、PTSDと診断されたのでしょうか。

あだん堂 「典型的なPTSDです」と言われました。私は、侵入、過覚醒、回避というPTSDの症状が当てはまると。

 侵入は、何度もそのシーンを思い出したり、それを悪夢としても見ること。過覚醒は、感覚が過敏になってちょっとした音にものすごく敏感になったりすること。常に緊張している状態だったのはそれで。回避は、そのシーンにかかわるすべてのものを避けようとすること。

 事故を思い出すし、夢にも見るし、電車だけでなく、乗り物やエレベーターが怖くなってしまって。