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 で、事故から3ヶ月くらい経った頃に、医師から社会から隔絶するのはよくないと言われて。それでなんかやろうと考えて「やるなら同人誌の編集だな」となって、医師にも相談しながらポツポツ本作りのお手伝いはしていたんですが、完治した今年から本格的に動き出した感じですね。

仲良くしてた友達が突然亡くなってしまい…

ーーあだん堂さんのサイトに、災害、事件、事故の被害に遭われた方に向けた不撓不屈応援割という割引プランがありますが、これは自身の経験から生まれたプランですか?

あだん堂 そうだと思います。事故後急に弱者になった私を多くの人が支えてくれた、とにかくその恩返し的にも社会貢献がしたくて。きっかけになった方がふたりいて、ひとりはTwitter(現X)を通じて知り合った着物オタクのネット上の知人で。今日着てきたのは、その方からいただいた着物なんです。サイズが合ってなくてツンツルテンなんですけど、どうしても着たくて。仲良くしてたけど、病気で亡くなってしまって。

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 もうひとりは、編集を担当しているエロ系の作家さんで、難病で障害者になってしまったんです。「いつ死ぬかわからないけど、創作活動は続けたい」と話していて、国から多少の補助が出ていて仕事と治療をしながらなんとか生活はできるけど、創作するのが大変で筆を折りそうだと。体力的にも大変なんですけど、障害者になったことで、エロが書けなくなりそうだと相談されました。

 

電車で起きた事件や事故のニュースは見ないようになった

ーーどうしてですか。

あだん堂 周りからの批判が殺到するんですって。「国から補助を受けてる身なのに、エロ本なんぞ書きやがって」みたいな。好きなものを書けなくなるって切ないじゃないですか。

 さっきも少し話しましたけど、私も外で飲んでたら「仕事休んで、京急から金もらって、酒飲んでんじゃねぇよ」みたいに言われたので。そこで、その作家さんの気持ちが少しだけわかった気がしたんです。弱者や、事件や事故の被害者は、ずっと不幸であらねばならないといった圧にさらされるんだな、っていう。

 そんなことで創作ができなくなったり、筆を折らなきゃいけないのがどうしようもなく寂しくて、なにかしたくて。でも、私は編集しか能がないし、自分の編集費を割り引くぐらいしか思いつかなくて。それで不撓不屈応援割始めました。

ーー現在は、PTSDは完治したけれど、事故の記憶はあるという状況ですよね。そういうなかで、「まだ事故をひきずっているな」と感じることってなにかありますか。

あだん堂 電車で起きた事件や事故のニュースは見ないようになりましたね。京王線で刺傷事件があったじゃないですか、あれはものすごく怖かったです。

ーーちなみに、こちら(文藝春秋)には電車で?

あだん堂 はい、京急で。PTSDが完治したことで電車に乗れるようになったので、もちろん帰りも京急に乗ります。同人誌編集という仕事は全国で仕事があるんですが、そういう出張も、事故前みたいに電車旅として楽しみながら生きていくつもりです。

写真=末永裕樹/文藝春秋