ーーエレベーターも乗れなかった。

あだん堂 閉じ込められた状態になるのが怖かったんでしょうかね。空気が入れ替わってない感じが、当時の記憶として残っていたんだと思います。だから、エレベーターとか閉鎖される場所がダメになったのかなって。ましてや動くし。

視神経を使った治療で事故の記憶をファイル移動

ーーPTSDの治療って、どんなことをされるのでしょうか。

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あだん堂 EMDRっていうアメリカの軍人さんとかがやる、PTSDの治療プログラムをやることになって、それをずっとやってました。たまにアメリカの刑事ドラマにも出てくるんですよ。FBIが事件の被害者の生き残りの人に、そのEMDRをして記憶を呼び起こすことがあるんです。

ーーとにかく話すとか?

あだん堂 いろんな方法があるらしいんですけど、私は視神経を使った方法でした。いま体験していることを、脳のある領域から、過去の記憶をストックする領域に記憶を移動させる作業を、視神経を使って行うんです。過去の出来事のはずが、 “いま体験していること”と脳が勘違いしてるってのが、事故の瞬間を思い出し続けている“侵入”という症状らしくてですね。

 カウンセリングルームのカウンセラーの方から「指を動かすので、それを目で追いかけてください」と言われて、視神経を動かしている間に事故の記憶を話したりしながら、ゆっくりと過去のを司る記憶野に移動させていくんです。やったことのない作業だから、なんとも不思議でしたね。施設によっては、指じゃなくて光の点を使ったりするらしいです。

 

ーー要するに脳内でのファイル移動ということでしょうか。

あだん堂 専門家じゃないから詳しく分かりませんが、私はそんな感じで理解しています。ファイル移動の手段が、視野っていうのが面白いなって。事故のシーンを思い出して、事故が起きてないのに、そのまっただなかにいると感じてしまっているのは視覚にすぎない、みたいな話もあって、なるほど、と。

ーーつまり、事故の瞬間の記憶を視覚として取り出して、それを過去のフォルダに持っていくと。

あだん堂 超ざっくり言うと、そんな感じです。あくまで、私がそう理解しているって話なんですが。

 指を追いながら「いま、目の前に浮かんでくる映像は何ですか?」って聞かれて。PTSDの典型的症状“侵入”というのが、今まさに事故の渦中にいる感覚に陥っている状態のことで。フラッシュバックみたいに、視界に常に事故真っ最中の風景がこびりついている。これを「今起きていることじゃなく、過去の出来事ですよ」とラベルをつけて移動する……みたいな。

電車に乗れるように、まずは電車を見るところから

ーーEMDRは、ある程度の間隔を空けて受けるのですか。

あだん堂 結構な負荷が掛かるんです。2時間泣きっぱなしとかになっちゃうから、心身ともにものすごく疲れるんですよね。だから、毎週は受けてなかった気がします。2週に1回とかとか、少ないときは1ヶ月に1回とか。

ーー電車に乗るトレーニングもされたそうですね。