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 結局、普段は使ってない裏口の駐車場に救急車を移動して、サイレンを鳴らさず大きな病院に運んでもらったんです。

事故の検査代はその日に実費払い

ーー医師に診てもらったり、病院に搬送されることで、さらに大事の渦中にいる事実を突きつけられますよね。

あだん堂 そうなんです。私は身体の痛みで歩くスピードも遅く、看護学校の方に支えてくれながらトイレに案内してもらって。「なにかあったら、トイレのなかでもすぐに呼んでくださいね」と言ってくれたんですけど、ありがたいと思うと同時に「誰かに助けてもらわないとなにもできない人間になってしまったんだな」という気持ちにもなって。なんかこう、世界から取り残された感じ、というか。それまではひとりで何でもできてたような気になってたから、急に自分が弱弱しい存在になったことがショックだったのかもしれません。

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 15時くらいに救急病院について調べてもらった結果、打ち身打撲のみ、異常なしでした。

ーー検査代はその場で取られるのですか。

あだん堂 緊急搬送と検査、打ち身の鎮痛剤で6万円くらいだったと思います。カードで払いました。「カード使えて、よかった~」って。

ーー健康保険の対象外?

あだん堂 ビックリしましたけど、交通事故の扱いになるんですね。事故だから、その補償から出るでしょうということで。もし健康保険で払ったりしたら二重払いになって、返金とか色々面倒くさくなるらしく。自費で払っておいて、先方の保証会社から払った分を返してもらう。交通事故って、基本的にそうらしいですね。事故に遭ったのは初めてだったので、知らなかったです。後日、京急さんがその領収書を買い取ってくれました。

鏡でアザだらけの体を見て「ほんとに事故に遭ったんだ」と自覚

ーー11時43分に事故に遭って、家に帰れたのが何時ごろでしょうか。

あだん堂 タクシーで病院を出たのが16時半あたりで、家に帰る前にドコモショップに寄って、携帯を買いに。営業の性(さが)で、電話がないと不安だったんですよね。で、タクシーに乗ってドコモショップに行ったものの、「乗り物に乗ると、また事故るのでは?」という恐怖に襲われて、身体中物凄く痛かったけど、家まで40分歩いて帰りました。この恐怖が、約3年ほど抜けなかったですね。

事故当時つけていた腕時計

ーー家について、まずなにを。

あだん堂 すぐにシャワーを浴びました。なんか、言いようのない“嫌なもの”が体にまとわりついてる気がしてしかたがなくて、それを落としたかった。で、シャワーの前に鏡でアザだらけの体を見て「ほんとに事故に遭ったんだ」って自覚して。

 シャワーの水が排水溝にグルグルグルグル流れていくのが、“嫌なもの”が流れていってる感じがして、ずーっとそれを眺めている感じで。で、これは1人でいるのはまずいなと思って、パートナーの働いているお店にご飯を食べに行ったんですよ。結局、その日は食べられなかったんですけど。

ーー次の日から仕事ってわけにもいかなかったと思いますが。

あだん堂 会社から「いくらでも休んでいいから」と言ってもらえて。たとえば、うつ病だと2年まで休職とか病気や怪我によって決まりがあるらしいんですけど、会社としても脱線事故の被害者は前例がないので「いろいろ診てもらって、復帰していいって診断書が取れるまでは休んで」と。そこはありがたかったです。