刑事ドラマまんまの取調室で聞き取りを受ける
ーー警察や京急からの連絡は。
あだん堂 京急さんからは、翌日に連絡が来ました。救急病院で診てくれた医師経由で連絡し合って。お詫びのオンパレードで、被害者全員に同じ対応してるのかと思うと大変だなって。でも、ずっと誠意のある対応をしてくれてますね。
警察の特別捜査本部からも同じ日に電話がきて、そのまま電話で30分ほど事情聴取を受けて。5日後に警察に行って、本格的な聞き取りをすることになりました。
ーー警察での聞き取りは、長時間におよびましたか?
あだん堂 コンクリ打ちっぱなし、窓なし、パイプ椅子、広さは2畳くらいという、ほんと刑事ドラマまんまの取調室で、中年の刑事さんと若い刑事さんと3時間くらいだったですかね、いろいろ話をして。
ーーどんな感じで聞き取りを。
あだん堂 「ブレーキは何メートルぐらい引きずりました?」とか聞かれるけど、「記憶が曖昧で……とりあえずギーッて音がずっとしてました」なんて答えると、「他の方たちもギーッていう音は聞いてると言ってるので、あなたがおっしゃっているのは間違いないと思いますよ」みたいな。追及したり誘導するのではなく、補完してくれる感じで進めてました。
聞き取りの最中に「今回の加害者は誰だと思うか、誰に罰を受けてほしいか?」と、何度か聞かれたのが印象的でした。
事故の影響で乗り物すべてが駄目に
ーー警察は事故の元凶を特定しないといけないわけですね。
あだん堂 誰に刑事責任を問い質したいか、ってことなんでしょうね。事故だけど、事件だから、犯人を決めなきゃいけないのが彼らの仕事なんだと思うんですよね。「今回の加害者は誰だと思うか」と聞かれたときに「あっ、そうか、そういうことだよな」と、それを理解して。警察は単純に事件のあらましが知りたいんじゃなくて、犯人が知りたいんだということがそこでよく分かりました。
その翌日に警察から電話が来て、横浜市役所でカウンセリング10回無料とか事件や事故の被害者に向けた福祉サービスがあると教えてくれて、カウンセリングを受けることにしました。
ーーカウンセリングを受けざるをえない状態だったと。
あだん堂 食事したり、簡単な掃除とかはできましたけど、電車やバスに乗ろうとすると泣き出しちゃって。この頃はまだ車の音もダメでたいして外出もできなかったので、毎日、ただ食べて寝て、起きて食べることしかできない。
でも、仕事もしないと食べていけないから、乗り物に乗らなくてもいい働き方や生き方を考えて。横浜港から船で都内に出て、バスで出社できるのかとか調べたけど、乗り物すべてが駄目だったので意味なくて。この時はとにかく“普通の生活”に早く戻らなきゃ、と焦ってました。
音にも過敏になって、大きな物音や声はもちろん、小さな物音にもビクつくようになってしまって。あと、「いまの生活は、ただ弱いだけだったり、単なるサボりじゃないのか?」とか考えるようになったり。で、9月の中旬に無料カウンセリングに通い出すことになりました。
写真=末永裕樹/文藝春秋