さらに、映像を記録していたDVDが「フォーマット(初期化)」された形跡があることも、証拠から明らかになった。
公判は2021年11月から開かれていたが、同年12月以降、期日間整理に付されていた。DVDの解析結果が証拠として提出されたのは、ようやく再開となった23年1月の公判でのこと。DVDは「2回フォーマットされたと考えられる」のだという。
にもかかわらず、23年3月の公判に証人出廷した当時の捜査主任刑事から、これについて明確な証言がなかったのだ。
検察官「DVDの一部のうち、逮捕の日の映像データDVDが読み込めないことが判明したのはいつ?」
主任刑事「確か2021年1月中旬ごろです。当時の担当検事からDVDの中身を確認するよう指示を受け、事務室内で確認したところ、見れないことが発覚した。当庁の捜査支援分析センターに持ち込み、分析を頼みました」
こうしてフォーマットの事実が分かったというのであるが、その原因について弁護人から問われた刑事は「分からない」と不可解な返答に終始した。
他の場所に備え付けていた秘匿カメラの映像を記録していたDVDも存在した。これらは「封筒に入れて茶箱で保管」していたというが、証人出廷にあたり映像を確認しようとした際、一部再生できない不具合が確認されたという。
これらDVD不具合の原因について思い当たるところを問われても、刑事は「分かりません」と答えるのみだった。捜査主任であったはずの刑事による曖昧な返答は裁判官らに大いに不信感を抱かせたようだ。判決では「真実の申告をしておらず、信頼を大きく害する。捜査自体の正当性を揺るがしかねない事態である」と、強く非難されている。
A氏から採取した尿から覚醒剤反応
さて肝心の覚醒剤については、逮捕当日にA氏から採取した尿から覚醒剤反応が認められている。これについて弁護側は、次のように述べていた。“故意に使用していたわけではないため無罪”だという主張だった。
「逮捕直前に、A氏が喉の渇きを訴えた際、車にあったペットボトルを警察から渡されて飲んだが、そこにA氏の知人女性が使っていた覚醒剤が混入していた可能性があり、A氏が意図的に覚醒剤を使用したわけではない」