逮捕当日、車で帰宅したA氏を確認した愛宕署の刑事らは、捜査車両を降りてA氏を確保。車だけではなくマンション居室内の捜索も行うため、事前に捜索差押許可状の発付を受けるなど準備していた。ところが「実際に部屋に行ってみると掃除している人がいて違和感を覚えた。令状を執行しようと読み上げ始めたが別の捜査員が来て、どうやらここは違うらしいと。また続けて関係者が来て、今日付で上の階に移動したと聞かされた」と、刑事の一人は証人尋問で明かした。
A氏は被告人質問で、この引っ越しについて「部屋は逮捕前日までの契約だった」と説明。またこの事件は愛宕署が捜査していたが、A氏は浅草署の刑事とは連絡を取り合っていたほか、服をプレゼントする間柄だったことも語っていた。逮捕直前の旅行中、浅草署の刑事から「いつ自宅に戻るのか」と電話がかかってきたため「刑事さんから連絡来る時は、当日か近くで捜査したりすることがあった。(今回も)そういうことなんだろうと」と語った。本来の帰宅日を1日ずらして、浅草署の刑事に伝えていたという。
部屋の捜索は不可能となったものの…
部屋の捜索は不可能となったものの、車の捜索は行われた。その際A氏は複数回喉の渇きを訴え、刑事から渡された水のペットボトルを数本飲んだ。のちの検査で尿から覚醒剤反応が出たという。A氏はその際に「覚醒剤が混入したペットボトルの水を飲んだ」と主張。捜索時に飲んだ水のひとつが「車内にあったものを刑事から渡された」ものであり「当日車に乗せた知人女性が、ペットボトルの水で使用済み注射器を洗ったことが原因だと思う」と主張していた。
判決ではこれについて「一見あり得そうもない内容に思えるが、虚偽と認める証拠がなくこれを排斥できない」と認定。当時、水を渡した刑事は「車内で未開封のものを確認して渡した」と証言していたが判決は「外観から開封済みかどうかを確認するのは容易でない。開封済みのものを未開封と誤認した可能性も否定できない」として、“車内にあった覚醒剤混入の水を飲んだ”可能性も捨てきれないとした。
A氏の言い分はたしかにあり得そうもない内容だったが、それよりも警察の対応の杜撰さが目立った。双方控訴せず、判決は確定している。