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「現代の冒険は2種類ある。1つは極地、もう1つは……」稀代のノンフィクション作家と発酵デザイナーが語る“自由への道”

川内有緒×小倉ヒラク

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 読書, , 社会, ライフスタイル, グルメ

note

アナーキーな仲間たちが自然発生的に集ってきて……

小倉 有緒さんのお友達の大工の丹羽さんが現れたところから、小屋作りが一気に進みましたよね。水平器の使い方とか壁の作り方とかをきちんと教えてくれる人がいて、無軌道、無計画なんだけど、方向性を持って作業を進めることが少しずつできるようになってきたのが2019年の春頃でした。

川内 丹羽さんの出現は大きかったなぁ。「ここはこうしたらいいんじゃないですか」とやり方を教えてくれるから、トライ&エラーで自分のスキルも段々上がり、進化していった。この歳になって新しいことを始める喜びを知りましたね。

 途中でツーバイフォー工法で建てると決めて、これなら家具づくりの延長で自分でもできそうという手応えがあった。でも、とにかく材料が重くて、パーツは3メートルくらいあるし、腰は痛いし、暑いしで、全工程の中で一番きつかったなぁ。

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みんなで壁パネルを建てる

小倉 このあたりから、いろんな愉快な仲間たちがぞくぞくと集まってきて、チームが組まれていきましたよね。

川内 「手伝いに行きますよー」って常識にとらわれない、ちょっとアナーキーな人たちが自然発生的に集ってきて、愉快に過ごして去っていくみたいな好循環が生まれて。

小倉 有緒さんの新刊『自由の丘に、小屋をつくる』には、そんな愉快な仲間たちがいっぱい出てきて最高なんですけど、コンポスト・トイレ(微生物の力で排泄物を分解するトイレ)を作りに来てくれたパリ在住のアーティスト、ブルーノとエツツとか印象的でした。

 その頃、僕のラボのほうも結構出来上がってきていて、太陽光発電のオフグリッド電源をいれて、自分で電気もまかなえるようにしたから、トイレや小屋も含めて敷地全体をどうやって設計するかにみんなが燃えていた時期でしたよね。

DIY精神はアジアの発酵食文化にも深く根付いている

川内 どうやって敷地全体をいい遊び場にしていくかという方向になっていって、大工の丹羽さんが新しい小屋を作ったり、小屋仲間たちがウッドデッキをやガーデンテーブルを作ったりして、どんどん増殖していって(笑)。

 振り返ってみると、最初自分にはちょっと難しいかな、できないかなと思ってたことも、行き詰まるたびにいつも誰かが必ず助けてくれて、実際できてしまった。人はやろうと思ったら何でもできるという、おかしな自信がつきました。

 このDIY精神って、小屋の話に限らず、なんにでも応用できるものだと思うんですよね。本を書くことだって、DIYそのもの。自分自身の意志で、取材して素材を集めて、土台を構成して、執筆して、失敗してやり直して、なんとか出版して、さらには本に関連して映画までつくって……みたいな自分でやる面白さに目覚めると、なんでも自分でやってみたくなる。出来ないときは、きっと誰かが助けてくれるし、「助けて」って言えばなんとかなったりするものだから。

小倉 なんでも自分の手でやる、そこにあるものを活かして創意工夫するDIYの精神ってアジアの発酵食文化にも深く根付いていて、共鳴するものを感じます。

チベットでは茶葉を突いてバターと混ぜて淹れる ©小倉ヒラク

 発酵食ってつまるところその地にあるものを使って、生き延びるための知恵なんですね。たとえばチベットのバター茶は、茶葉を発酵させることで栄養たっぷりにしてバターと混ぜた究極の高地サバイバル食だし、塩がきわめて入手しづらいインドの辺境地では、まるでなれずしのように魚を発酵させてうまみ調味料として使っていたりする。その土地の人が知恵を絞って自らの手でつくり出してきたのが発酵食文化の強みだったりします。