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米の糀のルーツを探しに雲南省の「茶馬古道」へ

川内 なるほどね、DIY精神が発酵食の工夫を生んできたわけだ。小屋を作っている数年間、「今回の旅もすごかったー」とヒラク君から断片的に話は聞いていたけど、『アジア発酵紀行』で初めてその全容がわかって、すごく面白かった。大工の丹羽さんが加わった2019年に最初の雲南省の旅に行ったんですよね。

小倉 そう。僕が専門の米麹、甘酒とか日本酒で使われている米の糀のルーツを探したくて雲南省に行ったんです。というのも、僕が学んだ東京農業大学の醸造学の先生たちが中国雲南省に日本の発酵文化のルーツがあるんじゃないかと論文に書いていて、長年ずっと気になっていたんですね。チベットから雲南省を縦断する「茶馬古道」を歩いていければ、日本の発酵文化のルーツを辿れるんじゃないかと思ったのが旅の出発点です。

山間に少数民族が暮らす雲南省の辺境地 ©小倉ヒラク

川内 いろんな少数民族のユニークな発酵食の描写には、わくわくしました。

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小倉 でも雲南省では米麹のルーツは見つけられず、先生たちの見立ては仮説だったのかなぁと思ってた矢先、ルイリーというミャンマーと中国の国境地帯の都市で、甘酒を売っているおばさんに会うんですね。パスポートなしでミャンマーと行き来している行商に。

 そのときピンときて、茶馬古道には雲南省南部のシーサンパンナからチベットのラサまで抜ける北ルートの他に、途中で分岐してミャンマーを超えてインドまでいく西ルートがある。それは西南シルクロードの道とかぶるのですが、甘酒を作っているということは、このルートに米麹文化の源流があるかもしれないぞと思ったんですね。茶馬古道の北ルートと西ルートの合流地点のネパールから辿ったのが2回目の旅でした。

川内 面白い展開ですね。現地の人たちのちょっとした情報をヒントに「あそこに行ってみよう」みたいな旅の仕方が素晴らしいなって思う。こんなお酒を造っている人がいる、あんな発酵食を作っている人がいる、という出会いの連続こそ旅の醍醐味ですね。

小倉 有緒さんのノンフィクション紀行『バウルの歌を探しに』も、バングラデシュを起点に、どんどんディープなところに入っていく作品じゃないですか。ベンガル地方で歌い継がれてきたバウルの歌の秘密を追って、次々と出会いの中で展開する。

 ことノンフィクションでは、わりとでたらめに旅をする大切さというか、自分の前提の知識を信用しないで、現地の人の言葉を頼りに、絶対に日本にいたらプラン立てて行こうとしない場所に行くことが作品を面白くすると強く実感しました。 

死の危険と隣り合わせだったマニプルの旅

川内 本当にそう。私は、最後のインドのマニプルの章が一番ワクワクした箇所で、自分もバングラデシュを何度も旅していたから、情景がすごく思い浮かんできました。忘れもしないのが、ヒラク君がちょうどマニプルを旅していたとき、たまたま小屋にいたら、本にも出てくるインド在住の映画監督・佐々木美佳さんから、「ヒラクさんとしばらく連絡とれなくなるかもしれないけど、心配しないでとご家族に伝えてください」という謎の伝言を受け取ったんですね。それをよくわからないままヒラク君の家族に伝えました。