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「現代の冒険は2種類ある。1つは極地、もう1つは……」稀代のノンフィクション作家と発酵デザイナーが語る“自由への道”

川内有緒×小倉ヒラク

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, 読書, , 社会, ライフスタイル, グルメ

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小倉 民族紛争が勃発したマニプルでは、そのとき本当に死の危険と隣り合わせで、僕的にはすごい真剣だったんだけど、周りはみんな「またヒラク君が変なところ行ってるんだね」くらいだったでしょ?(笑)

マニプルの伝統的な製法で糀をつくる小倉さん ©小倉ヒラク

川内 そう、奥さんのタミちゃんに伝えたら、「そうだよね、インド行ってんだよね~」と、落ち着いた反応。みんなでわいわい焚火をしながら、「ヒラク君、いま遠くの星の下でなにしてるんだろうね」と話したのを覚えています。やっぱり今回の旅は、今までになかったようなディープさで、奥に踏み込んだ感じがありました?

小倉 今までも日本各地の珍しい発酵食を探してディープな旅をしてきたけど、今回は、僕たちが現代文明で信じている秩序が及ばない、多民族すぎてコモンセンスがなく、共通する言語もない場所。分断と戦いを繰り返してきた長い歴史があって、ものすごい矛盾を抱えてる地に踏み込んで、自分で何とかしなくちゃいけない状況は段違いでしたね。

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川内 それって怖いけどワクワクするというか、怖さの向こうに行く喜びもあるよね。

世界にも日本にもまだ「空白地帯」がある

小倉 訳わかんないところまで冒険したい、どこまでも行って、訳わかんないアナーキーな状態下も突き進んでいきたい、みたいな自由への願望って生き物として人間にプリセットされているんだと思う。

 現代における冒険は2種類あると思っていて、1つは南極とか北極のような極地を旅しますという方向性で、その究極は宇宙だと思う。地球上の極地はもうほとんど情報化されてしまっているけど、もう1つの方向性は、世界の「空白地帯」。

 今回、雲南省からインドのコルカタあたりにはどでかい謎の空白地帯があることがわかって、中華の秩序も、ヒンドゥーの勢力も及ばない中間地帯に、少数民族がひしめいていて、二大勢力とは全く別ルールで生きている。現代人はアクセスしづらいし、現代的な感覚ではよくわからない空白地帯がまだ世界にはいくつかあって、それがもう1つの冒険の極だなと思ってます。

川内 いまはあらゆるところが調べられていて冒険らしい冒険をするのが難しい時代だけど、挑戦の余地はまだまだある。空白地帯というのは本当にそうで、誰もまだ調査していないテーマを追っていくこともできるし、日本にいても、固有のテーマを自分なりに掘り下げれば、いまいる場所でも冒険できると、私はいつも考えています。

自由への道をひらく冒険へ

小倉 有緒さんにとって、小屋を作るのは、冒険でしたか?

川内 小屋作りは、ひとつの家族の冒険という感覚です。自分の冒険というよりは、家族としてみんなで何ができるのかなと考えて、自分たちが自由に楽しくいられる場所が欲しかった。もちろんそこには、母でもなく、作家でもなく、自分であり続ける活動って何だろうっていうところで、小屋DIYが出てきたのもあるけれど。

完成した居心地のいい小屋

小倉 家族で、新しい世界をみんなで共有しよう、見たことのない景色をみんなで見ようという自由への道をひらく冒険ですよね。僕もその冒険の一部に関われて非常に楽しかったです。

川内 本当に楽しい時間だった。楽しさって、やっぱり最強だなって思う。楽しければ、人間はなんだって続けられるし。

小倉 じゃあ、また続きは今度小屋で焚火でもしながら話しましょう。

川内 お互いの冒険話をまたぜひ!

川内有緒『自由の丘に、小屋をつくる』(新潮社)
小倉ヒラク『アジア発酵紀行』(文藝春秋)

川内有緒(かわうち・ありお)
1972年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。渡米後、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学大学院で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』で開高健ノンフィクション賞、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』でYahoo!ニュース│本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞。他の著書に『パリでメシを食う。』『パリの国連で夢を食う。』など。

小倉ヒラク(おぐら・ひらく)
1983年、東京都生まれ。発酵デザイナー。早稲田大学文学部で文化人類学を学び、在学中にフランスへ留学。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボをつくる。「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちと発酵・微生物をテーマにしたプロジェクトを展開。絵本&アニメ『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。2020年、発酵食品の専門店「発酵デパートメント」を東京・下北沢にオープン。著書に『発酵文化人類学』『日本発酵紀行』『オッス!食国 美味しいにっぽん』など。

自由の丘に、小屋をつくる

自由の丘に、小屋をつくる

川内 有緒

新潮社

2023年10月18日 発売

アジア発酵紀行

アジア発酵紀行

小倉 ヒラク

文藝春秋

2023年11月14日 発売

「現代の冒険は2種類ある。1つは極地、もう1つは……」稀代のノンフィクション作家と発酵デザイナーが語る“自由への道”

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