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 ひろゆきさんは典型的なリバータリアンであって、自己責任論を重視するのは昔からで、しかも賢いので自分を応援してくれているのは人生がうまくいっていない人たちが中心であることを、本当に良く知っているのです。昔から。ゆえに、ネット民の屈折した感情に訴えかける技法は基本的には「不条理」や「欺瞞」、「タブー」といった人間の負の感情を社会がうまく覆い隠すための仕組みや制度に向けると切れ味が増すのです。

 ひろゆきさんを熱狂的に支持する客は、原則として「自分がうまくいっていないのは社会のせいだ」と思いがちな、うまくいってない人たちですから、うまくいってない理由を社会の仕組みや騙し、欺瞞とそれを公然と指摘できないタブーを徹底的に嘲笑し、分断していかないと人気が保てないのです。

 辺野古基地座り込み活動への中傷も含め、癖の強い大きめのネタを乱発しているにもかかわらず、ひろゆきさんからするとまるで無かったかのように新たなネタに突っ込み続けるのは、ひろゆきさんの「論じ続ける力」が知識不足で乏しいことに起因します。先にも述べた通りひろゆきさんは25年前から瞬発力の高いネタを面白くする力はあるけれど、正しくないことも主張し、相手を嘲笑するところからスタートするので議論自体は目立つ割に価値がないうえ、特に詳しくないのですぐに飽きて次のネタに行って新たな客を得ようとする、の繰り返しをしているからなのです。知識は無くてもそれらしいことを言って目立って「さすがひろゆき」と言われたいシンプルな承認欲求と言えます。

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©️文藝春秋

 そこへ、今回政治家として、米山隆一さんを論客とし、いま政治的話題の中でももっとも前提知識が必要で、事情が複雑で、解決が困難だけど国民からすれば死活問題そのものである国民皆保険制度を含む社会保障のネタで論戦してしまうという、ひろゆきさんからすれば一番やってはいけないネタを展開してしまいました。

ひろゆきが林修や池上彰になれなかった理由

 灘高校から東京大学医学部卒業の医師であり弁護士であり元知事であり衆議院議員であり室井佑月さんの夫である米山隆一さんに、正面からひろゆきさんが挑んで勝てるはずがないのです。知識量が違い過ぎます。結果として、勢いよく買春問題も持ち出し米山隆一さんを中傷・罵倒したひろゆきさんは米山隆一さんに転がされ、逆に冷静に指摘されてしどろもどろとなり、大変な醜態を晒したのは……どちらも個人を知る私としては「まあそうでしょうね」と思わざるを得ません。ひろゆきさんのやり方では、物事を知らない人にしか通用しないし、お客さんにできないのです。

 その点で、テレビでの知識・教養番組で一線の活躍をする池上彰さんや林修さんら、自分たちの知識ではなくいろんなその分野の専門家から話をきちんと聞いてきて番組の中で「こういう凄いことを喋っている人がいます」と紹介して視聴者の納得を引き出す方向へシフトさせた人たちがいることは特筆されるべきことです。やはり、きちんとしている人たちは自身もしっかりとした知識人的な基盤は持っているけれど、しかし専門性はテーマによっては至らないことはよく承知しているので、きちんとその方面の専門家を呼び、視聴者と一緒にそのことを学ぶという構図で生き残っています。何より、池上彰さんも林修さんも時折番組スタッフのやらかしで炎上したりもしますが、非常に勉強熱心で各方面にアンテナを伸ばしていることは良く分かります。