『ラブホテル』と『秘宝館』をいま再刊行した理由はほかにもあって、ラブホや秘宝館が隆盛だったジェネレーションの身としては、それらをノスタルジーだけで語られることにちょっと抵抗があったんです。
「昭和レトロ」「平成レトロ」などと称して、若い人がデコラティブな内装やドギツイ性表現に新鮮さを感じて、おもしろがったり楽しんだりするのは全然いいんですけど、当時回転ベッドを使っていた人は、それを先端的でカッコいいものと捉えていたわけです。その気持ちも大切にしたい。
面白いものは有名な人だけがつくりだすわけじゃない
なので『ラブホテル』『秘宝館』とも最後の章には、それらがいまはどんな状況になっているのかわかるようなページを付け加えました。新たに取材して情報をアップデートしました。
かつて人がラブホテルや秘宝館をどう楽しんでいたかまでを見せることで、当時の場所や人の想い、スピリットを感じとってもらいたいんです。そこまでしないと、次につながらないと思うので。
だって、せっかくこんなおもしろいものがあるんだから、灯を絶やしたくはないじゃないですか。『秘宝館』の終わりでは「大道芸術館」という場所を紹介していますが、ここは墨田区向島にあるギャラリー・カフェバーで、僕が集めてきた名もない人たちの作品を中心に展示しています。「伊勢の元祖国際秘宝館」の鳥羽分館が閉館するとき、展示品の一部を僕が買い取っておいたものとか。それをいま向島で見せているのです。住宅街の裏のわかりづらい立地で、ろくに宣伝もしていないのに、外国人のお客さんまでたくさん来てくれていますよ。
――思えば都築さんのこれまでの活動は、「世に埋もれがちなものを掘り起こし、光を当てる」というスタイルで貫かれていると見えます。
都築 そうですね。希少なものは美術館などで丁寧に保存され公開されたりしますけど、世にたくさん出回ってありふれたものほど、時代が変わるとすぐ忘れられ消えていく。そこにこそ時代をあらわす文化があったりするのに。それで僕はこれまで、日本の路傍をさまよいながら文化のかけらを拾い集めてきたつもりです。
最初に作った本『TOKYO STYLE』からして、住人の趣味に溢れた東京のひとり暮らしの部屋をみずから撮り歩いたものでした。家賃100万円のゴージャスな部屋よりも、こっちのほうが馴染みある人は圧倒的に多いと思ったからです。