世紀の奇書が再降臨、である。
昭和~平成の日本で独自に発展した「性の殿堂」を取材した2冊、その名も「秘宝館」「ラブホテル」と、2冊セットの「特装版マル秘BOX」が刊行された。
著者は編集者・都築響一さん。駅裏や高速道路インターチェンジ付近にあるラブホテルや、全国に点在する秘宝館も、かねて都築さんが注目してきたスポット。機会あるごと取材を繰り返し、どちらのネタも以前書籍にまとめているが、このたび増補を施し再び出版の運びとなったのだ。
日本が誇るこれら「性的文化遺産」への思いを、著者本人に訊こう。
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回転ベッドや屋形船、錦鯉が部屋の中を泳ぐラブホも……
――「ラブホテル」「秘宝館」とも、ひと昔前までどの地域でもよく見かけたものですが、ページを繰って内部を取材した写真群を目の当たりにすると、インパクト絶大です。身近なところにこんな非日常の世界が広がっていたのですね。
都築 ラブホテルも秘宝館も、本当にいろんなのがあるんだなと、改めてわかるでしょう? たとえば、かつてあちこちのラブホテルにあった回転ベッド。ベッドが回転したってそのこと自体が気持ちいいわけじゃないんだけど、あれは壁と天井が鏡張りで、自分たちの淫らな姿が万華鏡のように見えるのを楽しむ趣向になっています。つくった人の発想力がすごいですよね。
ベッドを屋形船のカタチに模した部屋も、神奈川県川崎のラブホテルにありました。舟の下に水が張ってあり、錦鯉が泳がせてある。でも、お客さんが使用済みコンドームなんかを投げ捨てるものだから、鯉が飲み込んで死んでしまうケースが多発。途中から水が抜かれてしまいました。
サービスやデザインが、あまりにも過剰なんですよね。つくり手側は『利用者に喜んでもらいたい』という純粋な思いでやっているのでしょうが、おもてなしの精神が有り余ってヘンな方向に発揮されている。
こういうの、極めて日本的な感覚かなとも思います。ちょうど電車のアナウンスが、「ホームの端を歩かないで」「荷物を引いて」「閉まるドアにご注意」……などと親切心からあれこれ言っているのに、過剰でうるさく感じられてしまうのと同じです。