所得収支の中身が大きく変化
円安の理由としては、この金利差拡大が注目されることが多いが、もう1つ、日本の対外収支構造が変化していることも、底流で影響している。かつて日本は貿易黒字大国だったが、今では貿易黒字が当たり前とは言えなくなった。21世紀に入ってからでも、リーマン・ショック直前の2007年には14.2兆円もの貿易黒字だったのに、22年の貿易収支は15.7兆円の赤字だった。もちろん、22年の赤字には原油価格の高騰などが大きく影響したが、原油価格が値下がりした23年も貿易赤字が続いている。
確かに、海外からの利子・配当の受け取りによって所得収支が巨額の黒字となっているため、経常収支で見れば日本は依然として黒字大国である。だが、気を付けなければいけないのは、所得収支の中身が大きく変わってしまったことだ。
昔の所得収支黒字は、銀行や保険会社が米国債などに投資して得た利子だったから、これは日本に送金しないと預金者等への利子が支払えなかった。ところが今の所得収支は、事業会社の現地法人の利益が中心である。このため、実際の資金は現地に溜め込まれる場合が多い。そうなると、国際収支統計上はともかく、所得収支の黒字は実際のドル需給に影響を与えないため、円高要因となりにくいのである。
円安には歯止めも、反転は限定的
それでは、円安は今後も続くのだろうか。金融政策の面から考えると、円安には歯止めが掛かる可能性が高い。まず米国サイドを見ると、これまでの急激な利上げの効果もあって、消費者物価のインフレ率は3%台まで低下しており(日本と殆ど変わらない)、金融市場では利上げはそろそろ打ち止めが近いとの見方が拡がっている。
他方、日本は短期金利だけでなく、10年国債の利回りにもターゲットを設けているのが特徴だ。22年来の円安に関しては、日銀が長期金利まで無理に抑え込もうとしたことが円安を増幅したと見られている。また、これが国債市場の機能低下を招いたとの批判もあり、黒田前総裁時代の22年12月と植田総裁時代の23年7月の2度にわたり、10年国債の利回りの上限を0.25%から1%に引上げている。