今後も物価上昇が続き、24年も高めの賃上げが実現すれば、日銀はマイナス金利を解除して、金利の正常化に向かうとの見方が強まっている。このように内外金利差が縮小に向かえば、円安トレンドも反転に向かうと考えるのが自然だ。ただし、米国景気は予想以上の強さを維持しており、近い将来に大幅な利下げはないと見られているため、急激な円高にもなりにくいと考えるべきだろう。
専門家の注目が集まるポイント
次に対外収支の面だが、ここではコロナの落着きに伴ってインバウンド観光が急増し、旅行収支を通じて対外収支の改善に寄与することが期待されていた。事実、旅行収支の黒字は22年秋から急拡大している(これには円安の影響も大きい)が、福島第一原発の処理水放出の結果、中国人観光客(とくに団体旅行客)の大幅な増加が当面期待しにくくなっているのは周知の通りである。
一方、最近専門家の間で注目を集めているのが「その他サービス収支」の動向である。耳慣れない項目だろうが、ここには「専門・経営コンサルティングサービス」、「通信・コンピュータ・情報サービス」、「研究開発サービス」といった高度なサービスが多数含まれている。そして、これらの赤字が急拡大しているのだ。「知的財産権等使用料」は大幅な黒字を維持しているが、これは海外現地法人の日本本社への支払いが中心であり、有料動画や音楽に限れば、やはり赤字が拡大している。日本の政府・企業がデジタル・トランスフォーメーションに力を入れるほど、「その他サービス収支」の赤字が増える構図と言えよう。こうした点をも踏まえると、やはり円安に歯止めは掛かっても、大幅な円高は期待しにくいと考えられる。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。