「週刊文春CINEMA」にこれまでご登場いただいた57名が選んだ、2023年公開作品の中のベストテンを発表! 57名の選者別ベストテンは「週刊文春CINEMA」2023冬号に掲載しています。
第11位『レッド・ロケット』(45点)――噓と虚栄心にまみれた陽気なろくでなしの物語
注目の製作・配給会社A24の作品。息を吐くように嘘と自慢話をまくしたて、ひたすら麻薬を売ったり、ドーナツ屋の若い女性店員の気をひこうとしたり、自分勝手でモラルのかけらも感じない「陽気なろくでなし」(中野翠)のマイキー(サイモン・レックス)が引き起こす大騒動。
ドナルド・トランプをながめて「オレは愛国者だ」とつぶやく彼が、豊かなアメリカを享受できなかったホワイト・トラッシュの姿だとわかったとき、単なるコメディとは意味合いが変わる。監督の「ショーン・ベイカーらしく、かつ彼のキャリアでベストな作品」(猿渡由紀)だ。
第12位『Pearl パール』(39.5点)――A24ならではの奇妙なミュージカル・オマージュ・ホラー
続いてもA24作品。タイ・ウェスト監督による『X エックス』(22年)に次ぐシリーズ2作目にして、前作の老殺人鬼夫婦の妻・パール(ミア・ゴス)の若き日を描く前日譚だ。
第一次大戦に従軍する夫の帰りを待ちながら、憧れのミュージカルの世界のように軽やかに暴力性を解放していく様は、「ジャンル映画然として楽しめながらも、戦争、伝染病、閉塞感を背景に、ミア・ゴスの表現力が作品を別の次元に飛躍させていると感じ」(中島歩)させる、奇妙な一篇である。