「週刊文春CINEMA」にこれまでご登場いただいた57名が選んだ、2023年公開作品の中のベストテンを発表! 57名の選者別ベストテンは「週刊文春CINEMA」2023冬号に掲載しています。
第6位『イニシェリン島の精霊』(67点)――理由のない突然の絶交、この“寓話”が描くものとは
アイルランド内戦期、海を挟んだ平和な孤島・イニシェリン島で、羊飼いのパードリック(コリン・ファレル)はバイオリン奏者のコルム(ブレンダン・グリーソン)から理不尽に絶交される。
地味な男同士のいさかいが、徐々に限度を超えたエスカレートを見せる。内戦の隠喩か? 「男社会の寓話、揶揄」(澤井健)か? はたまた「狭い土地で生きてゆくザワザワさを感じっ放し」(プチ鹿島)になる閉鎖空間の不寛容さか?
『スリー・ビルボード』(17年)の監督マーティン・マクドナーならではのブラック・コメディ。
第7位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(60.5点)――カンフー×マルチバースという異色の設定で親子の絆を描く
退屈な毎日を繰り返す普通の主婦が、突如マルチバースに迷い込み、カンフーで世界を救う! 異色のストーリーでアカデミー賞では最多7部門を受賞。
現実と多元宇宙を行き来する目まぐるしい場面転換に「過剰な技術力と疾走感でやり切った」(鴻巣友季子)、「私は今何を観ている?と混乱しながらも、気付くと涙していた」(良原安美)。壮大な物語ながらも、実は悪のボスは自分の娘だったという展開に「親と娘の距離感と絆を描き、人も思想も分断されたアメリカの現代を切り取った」(曽我部恵一)とストーリーも胸を打った。