にれしゅうへい/1957年、岩手県生まれ。米国企業日本法人に入社し、物流プロジェクトを手がける。在職中に、96年『Cの福音』でデビュー。「朝倉恭介シリーズ」がベストセラーとなる。05年『再生巨流』以降、経済小説を精力的に発表。『プラチナタウン』『修羅の宴』『砂の王宮』など著書多数。

「近年、アマゾンや楽天などのネット通販が大きくビジネスを伸ばしていますが、ものを売るプロセスの中で、実は商品を最後に届ける人間が一番強い。ヤマト運輸のような総合物流会社がネット通販事業をやろうと思えばその能力はすでにあるんです。なぜその強みを活かさないんだ、というのが着想の原点です」

『修羅の宴』などの経済小説で知られる楡周平さんが、物流業界を舞台にした新作『ドッグファイト』を上梓した。世界的外資系ネット企業に食い物にされる運送会社の男達が、知恵を絞って一矢報いる熱きドラマだ。

「アマゾンやヨドバシの通販など配送料が無料ですが、おかしいと思いませんか? たとえば1冊の本を配送するのにも、本を仕入れ、倉庫に保管し、オーダー毎にピックアップし、パッキングし、中央倉庫からデポ(中間拠点)に運び、小口の運送へと何段階もの過程を経る。誰かを泣かさなきゃ配送料無料のビジネスなんて成り立たない。いろいろな運送会社の決算書を見ると、どこも物量は上がっているのに利益は伸び悩んでいます。しかも当日配送すら行われていますから、数時間単位の配送の競争を強いられています。労働条件が悪化し、今やターミナルで働いているのは外国人ばかりで、トラックの運転手の4割は50代以上。年収も大幅に下がり、だから若い人が寄りつかないわけです。そんな中でどう利益を上げるか徹底的に考えました」

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 本書には地方創生のみならず、海外進出も視野に入れた日本の物流業界の驚きの再生プランが記されている。米企業出身の著者ならではの壮大なビジョンだ。

「アマゾンは既にサンフランシスコやロスで生鮮食品を数時間以内に届けるサービスを始めていて、アメリカ各地ではショッピングモールやデパートが壊滅的です。でもここに来て、全米に5000店舗を有するウォルマートの逆襲が始まろうとしている。そこに本書に描いたようなオペレーションを確立した日本の宅配業者が参入したら、面白いことになると思いますよ」

 楡さんを突き動かしたのは、日本社会に対する強い危機感だ。

「人を人としてみない企業が増えた。今の経済界には国士と言われる人がいなくなってしまった。いかに人件費を抑えるかという経営者ばかりで、その陰で多くの人が泣いている。こんな社会で本当にいいのか、この国のあり方を真剣に考えるべき時に来ていると思う」

物流の大手・コンゴウ陸送は、いまや年間で取り扱う荷物量の3割が世界的外資系ネット通販会社スイフトのものだ。だがいっこうに利益が上がらない取引に危機感を抱いた経営企画部の郡司は、異動の命を受けスイフトとの折衝を任される。スイフトの生鮮食品の当日配送プランに対抗し、郡司が考え出した秘策とは?

ドッグファイト

楡 周平 (著)

KADOKAWA/角川書店
2016年7月29日 発売

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