こうした考え方に対して、大谷は「それじゃ、おもしろくないでしょう」と否定的な意見を持っていました。理由は「ホームランを打てるバッターが毎試合、逆方向のシングルヒットを狙うのを見ていて楽しいかと言われたら、僕は絶対に楽しくないと思う」からです。大谷がしばしば比較されるベーブ・ルースもかつて記者から「バットを短く持ってレフトへ流し打ちすれば4割打てるのに」と言われ、「私がレフトへ二塁打を3本飛ばすより、ライトへホームランを1本打つのをファンは見たがっている」と答えています。
大谷は足も速いだけに、打率だけを考えれば、セーフティバントも狙えるし、流し打ちをしてヒットを稼ぐこともできますが、それはあくまでも「たまに」であり、やはりファンが大谷に期待するのは豪快なホームランです。
期待されているうちはまだまだ、計算されてこそ一人前
期待されることと計算されることは違う
(「Number」1048 P11)
スポーツでもビジネスでも、「期待の新人」とか、「期待の若手」とは言いますが、「期待の中堅」といった言い方はありません。「期待の」は、「きっとこのくらいはやってくれるのでは」という想定であり、やってくれれば嬉しいし、もしダメだったとしても、「それはそれで仕方がない」という面があります。
大谷翔平は日本ハム時代にもWBCへの出場が望まれていましたが、その時はケガで出場することができませんでした。その意味では2023年はチームにとっても、大谷にとっても念願の出場だったわけですが、大谷はかつてと今を比べて、今のほうがプレッシャーを感じると話していました。理由はこうです。
「(日本代表)チームでの僕はもう主力として計算される立場になったと思っていますから。このくらいはやってくれるだろうという想定とか期待ではなく、計算されている選手としてどういう成績を出すのかというところがプレッシャーなると思うんです」
大谷によると、期待されているうちは頑張ればいいだけですが、計算されるようになると常にそれなりの成績が求められることになります。その分、プレッシャーも感じるし、「ちゃんとやらなくちゃ」という気持ちが湧いてくるというのが大谷の考え方です。期待されているうちはまだまだで、計算されてこそ一人前なのです。