検査体制の充実を繰り返し提言していた
事実は全く逆で、私たちは検査体制の充実を繰り返し提言していたが、これがなかなか伝わっていかずに歯痒い思いをした。「無症状者も含めて全ての人に検査を実施すべき」という意見と「検査は戦略的に実施すべき」という意見で世論が二分されるような状況が続く中、かなり突っ込んだ議論の末にできた20年7月16日の提言「検査体制の基本的な考え・戦略」で、検査の全体像を示し、検査の優先順位を整理した。
この提言が理解され、検査に関する分断に終止符が打たれることを期待したが、提言をした分科会翌日の新聞紙面は、同時期に政治的な話題となっていたGo Toキャンペーンの実施にスペースが割かれ、残念ながら検査戦略への言及は少なかった。
政府に主導してほしかったこと
新型コロナ対策をめぐっては、専門家が政府の前面に出ることになった。09年の新型インフルエンザ対策ではなかった構図である。
最初は20年2月、クルーズ船の感染対策に集中していた政府との間で、日本国内での感染拡大に対する危機感が十分には共有されていないと感じ、政府からの質問に答えるだけでなく、必要な対策案を政府に提示する必要があると思っていた。
2月24日に専門家独自の見解を政府に出すと、それがマスコミの知るところとなり、記者会見で説明するよう要請されることになった。これを契機に提言を出すたびに会見を開くことが定例化。本来であれば政府にリスクコミュニケーションを主導してほしかったが、政府からも、専門家が情報伝達の役割を担ってほしいと期待されていると感じていた。
さらに何度も呼ばれた国会答弁や緊急事態宣言のたびごとに私が総理の記者会見に同席することになり、実際は権限などないのに、専門家が全てを決めているという印象を持たれた。
政府と専門家の役割分担の不明確さ
最初の提言後も、同年3月から5月までの間に10回にわたり提言書を出し、「行動変容」をお願いせざるをえなかった。とりわけ、抽象的なメッセージでは不十分だと考え、「接触8割削減」や「新しい生活様式」など必要になることを具体的に示した。
このため、「専門家会議が人々の生活にまで踏み込んだ」という批判を受けることにもなった。誰が、どこまでリスコミに責任を持つのか。政府と専門家の役割分担が明確でなかったことは、今後に積み残された課題だ。