社会経済に与えたマイナスの影響
日本の20年、21年は接触機会の削減や三密の回避などの対策が採られたこともあって感染者数、死亡者数を低く抑えることができた。しかし感染力が極めて高いオミクロン株が主流となった22年には感染の抑制が困難になり、感染対策を緩めたこともあって前の2年よりも多い死亡者数が報告された。
社会経済への影響も大きかった。経済学者の小林慶一郎氏によれば、3年間のコロナ禍が我が国のGDPに与えたマイナスの影響は、累計では欧米のそれとほぼ同水準であったが、緊急事態宣言などによって、普通の生活を送れず、収入が下がったり失業したりした人も多かった。
外出を控えた高齢者に身体機能が低下するケースや、授業はオンラインとなり、青春を奪われたと感じた若い人たちも多かった。子どもの成長発達への影響も見られたという報告もある。
専門家たちの議論は毎回6時間以上
新型コロナ対策が難しい背景には、前述したウイルス側の要因に加え、人間や社会の側の要因もあった。唯一絶対の正解がない中、経済への負荷を少なくするためにどのレベルまで感染を抑えるか、どこまでなら感染を許容できるか。具体的な話になると、それぞれの立場や価値観によって意見が交わらず、感染状況によって対策を調整する必要も生じた。
政府に呼ばれた専門家の誰一人として、一つの視点だけから病気の全体像を掴むことはできなかった。その実像に近づこうと、疫学、ウイルス学、呼吸器内科、感染症、公衆衛生、医療社会学、リスクコミュニケーション、法律家、経済学者といった各分野の俊英が集まって、できるだけ科学的に合理性があり、多くの人に理解納得してもらえるような提言を出そうと試みた。
それぞれの提言を作るにあたって、私たちは毎週1回、多い時は3回も勉強会を開いて議論をした。1回の議論は6時間より短いことはなかった。それほどまでの真剣さでぶつかった課題は、大きく分けて次の3つであった。