相談のなかった全国一斉休校
Go Toや東京オリンピックの開催方式をめぐって政府と専門家の間に意見の違いがあったため、両者がしばしば対立しているように受け取られたが、実際には多くの場合、政府は提言を採用していた。
専門家を代表して政府との交渉役を担った私も、政府を批判しよう、あるいは逆に忖度しようといった考えは当初からなく、なるべく頻繁に大臣や行政官などと意見交換をし、意識合わせをした。意見が異なっても、我が国の感染対策上、譲歩した方がいいと思った時にはそうしたし、譲歩すべきでないと思った時には明確に主張した。
一方、そもそも専門家に相談することなく全国臨時一斉休校を決めたり(20年2月)、専門家の提言を採用せず、予定より前倒して20年7月、Go Toトラベルキャンペーンを開始する決定をしたこともあった。
意見の違いが時々生じるのは健全なことで、最終的に決めるのは、国民の負託を受けた政府だ。ただ、意思決定のプロセスを透明にするためにも、専門家の提言を採用しない場合、政府はその理由をしっかり説明することが必要だ。この点が今回は足りなかった。
「仏作って魂入れず」とならないように
23年9月に内閣感染症危機管理統括庁が発足し、新しい助言組織も動き出した。25年には、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して「国立健康危機管理研究機構」(日本版CDC)が設立される。これらが「仏作って魂入れず」とならないようにするには、行政、政治家、専門家組織、民間企業が、有事にどのような役割分担をするかあらかじめ準備しておくことが重要だ。この点で、過去から学ぶことは大切だと思う。
政府の有識者会議は22年6月に検証報告書を取りまとめたが、これだけ複雑な危機の検証として5回の会合では時間が少なかったのではないか。政治家、行政官、専門家など様々な当事者にじっくりヒアリングし、それぞれの公表資料も用いて検証すれば、有効な準備につながるはずだ。
政府の対策に深く関わってきた者として、私を含めた専門家たちの経験を述べた。新体制にエールを送るとともに、次なるパンデミック対策の参考にしていただければありがたい。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。