一生賃貸住宅に住み続けるか、ローンを組んでマイホームを購入するかという永遠の論争。どちらにもさまざまなメリット・デメリットがあるように思われるが、ライフネット生命創業者の出口治明氏は「とりわけ若い世代にマイホーム購入を勧めない」という。

 ここでは、同氏の著書『働く君に伝えたい「お金」の教養』(ポプラ社)の一部を抜粋。出口氏がなぜ若い世代にマイホーム購入を勧めないのか。その根拠に迫る。(全2回の2回目/前編を読む)

写真はイメージ ©️AFLO

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マイホーム購入がトクをしない4つの理由

――「家」も意見が分かれるところかもしれませんね。出口さんは、いまという時代にマイホームを買うことについてどう思いますか?

 正直、賃貸ではなくマイホームを買ったほうがトクをするという状況は、いまの日本ではあり得ないでしょう。

 僕がとりわけ若い世代にマイホーム購入を勧めない理由は4つあります。

(1)自分の流動性が下がる

 長期の、たとえば35年ローンを組むと、身軽に生きづらくなります。仕事を辞めにくくなるし、引っ越しもしづらくなる。埼玉に家を買ったら鎌倉にある職場には転職しづらいし、留学や起業など大きな挑戦をしようと思っても、「失敗したらローンが払えなくなるかも……」と思うと躊躇してしまうでしょう。つまり、自分の一生が家に縛りつけられてしまうのです。将来の自分の行動を縛ることにつながる選択は、雇用の流動化が進む世界では大きなリスクになると考えます。

(2)家族形態の変化にあわせられない

 家族の人数と必要な部屋数は変化していくものです。

 夫婦2人にぴったりな間取りの家を買えば、子どもが大きくなったときに引っ越さなければなりません。「子ども3人が育ち盛り」というタイミングで家を買ったら、子どもが巣立ったあと、最終的には広い家に老夫婦がぽつねんと取り残されてしまうでしょう。

 ヨーロッパのように家具つきの賃貸住宅を普及させ、家族の形態によって引っ越すのがもっとも合理的なのですが、日本にはそういう文化がないためなかなか難しいところです。

(3)成長性のなさ

 最近都心や地方都市では地価があがっているところもありますが、マクロで見れば人口が減りはじめ、日本経済の先行きも決して楽観できないいま、一等地でなければ不動産価値の成長は見込めません。以前は、土地を買えばまず値上がりすることが当たり前でした。だからこそ、長期でローンを組むメリットがあったのです。払い終わるころ、買ったときより値段が上がっているわけですから、「投資」としても優れていたのです。しかしいまは、マイホームを何十年ものローンで組んで購入すると、払い終わるころには地価も物件の価値も二束三文になっている……という可能性すらあります。

(4)空き家の多さと買い手の不在

 人口減のまっただなかにいる日本の空き家は、1000万戸に迫る勢いです。一人っ子同士で結婚した場合、双方の親から家を相続すると、単純計算で1戸余ってしまいますからね。日本中がそういう状態ですから、「売りたい」と思う人のほうが買い手よりも増えるのは必然。そうなると、やはり不動産の価値は落ちてしまうでしょう。