……と、ネガティブな要素ばかりをお伝えしてきました。不動産業界の人に怒られてしまいそうですね。
それにしても、なぜ日本では持ち家志向が強まったのでしょうか? じつは、これも戦後の高度成長の影響です。
戦後、マイホームが市民の夢に
戦前までは長屋文化の影響もあり、持ち家比率はそれほど高くはありませんでした。ところが1950年に住宅金融公庫が設立された。これによって、われわれ一般市民も住宅ローンを組めるようになったのです。
先ほどマイホーム購入のことを「人生でもっとも大きな買い物のひとつ」と言っていましたが、そのとおり。マイホームはふつうの市民ができる、最大の消費行動です。つまり政府は、市民に夢を持たせ、マイホームを買ってもらうことで、内需を拡大しようとしたのです。
そうなると日本中がマイホームのために働くようになり、国はさらに成長し、土地の値段はどんどん上がっていく。結果、「土地神話」「不動産神話」ができあがっていったわけです。
――出口さんはマイホーム購入を勧めない4つの理由のなかで、自分の人生の流動性の低下、そして長期ローンと買い手の不在を指摘されていました。裏を返せば、地元で一生暮らすことを決めていて、なおかつ一括で買えるなら別に問題ないということですか?
一括で支払うのであれば、リスクはだいぶ少なくなるでしょう。それに、自分が住むため、つまり投資ではなく純粋なマイホーム用なら、リスクは低いと言えます。
資産として不動産を持つのは危険
ただし、「資産として持っておく」と考えて不動産を持つのは、危険。資産としての価値が上がるのは、人口の増加や経済成長が前提です。もしくは、「買った不動産の近くに駅ができた」とか「再開発が進んだ」などの条件がない限り不動産の価値は上がりません。そんな棚からぼた餅が落ちてくるような物件は千に一つもないのです。
買った不動産の価格がどのように動いていくか、ざっくりシミュレーションしてみましょう。仮に、約3000万円のマンションを東京郊外に買ったとします。手数料や販売経費が500万円だとすると、このマンションの実質価値は2500万円です。このマンションで長期のローンを組んだ場合、金利も含めると全部でおよそ4000万円を支払わなければなりません。
そして、購入から1年、また1年と古くなるにつれ、少しずつマンションの価値は下がっていきます。4000万円を払い終わる数十年後、その不動産の価値はどうなっているか。東京郊外という土地柄、購入価格の半分、1500万円を切っている可能性もじゅうぶんあります。
こう考えると、家を買うことのメリットは「老後も確実に住める家がある」くらいしかありません。それを重視するのであれば、購入に踏み切ってもいいでしょう。
いかんせん、不動産を投資目的で35年のローンを組んで買うというのは、戦後からバブルがはじけるまでの日本においてのみ意味を成した、ガラパゴス的なお金の運用方法です。
みなさんは、「たまたま」その一瞬を垣間見た、世界でもたぐいまれな世代だと思ってください。