マインドコントロールの恐ろしさと量刑判断の難しさ
この一件で、マインドコントロールを含んだ犯罪についての、判断の難しさを実感したと牧野氏は語る。
「まあ実際、マインドコントロールによって、本当に人殺しってところまでできちゃう、させちゃうという事件でしたからね。だから、そういう意味では、それがマインドコントロールの恐ろしさでもあるし、マインドコントロールによる事件への量刑判断っていうのも、難しいところがあるんだろうなっていう感じは受けました」
11年12月12日、最高裁は松永の上告を棄却し、緒方についての福岡高検の上告も棄却した。
「これについては、裁判所が決めたことだから、もうこうなれば仕方ないという思いで、受け止めるほかなかったですね」
死刑と無期、彼女の人生にとってどちらが良かったのか…
そこで私は改めて、緒方の無期判決ということをどのように考えているか、牧野氏に尋ねた。「難しい質問ですね」と氏は苦笑し、一拍置いて口を開く。
「まあ検事時代は当然、最高裁が、裁判所が決めたことだからしょうがないなって思いますけど、個人的な感想として、逆に、生かしといてよかったのか、そのまま死刑ってことで、絞首台に乗った方が良かったんじゃないか、それが彼女の人生としてたぶんそっちの方が良かったんじゃないかな、って感じもするんですけどね……」
私が頷くと、間を置き牧野氏は続けた。
「……変に生かされてるって感じがするんですよね。辛いと思うけどね、緒方自身も……。生きてねえ……。(刑務所で)どういう生活をしているのかは知らないけど、写経でもしているのかもしれないけど……」
私は最後に、牧野氏にとって「北九州監禁連続殺人事件」は、検察官人生のなかでどのような位置付けであるか質問した。
「そういう点でいえば、一つの案件にすぎないでしょうね。これまで、数多くの死刑事件を担当してきましたから」
それはいかなる事案であろうとも、粛々と業務に当たるのが当然、という職業倫理を感じさせる回答だった。
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この凶悪事件の詳細は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)にまとめられています。