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うなされた夜

 こうして初めての事故物件のお祓いは終了しました。時間にして20分ほどです。帰りの車中は、装束や祭壇にこびりついた死臭に包まれていました。

 臭いは何度洗濯や洗浄をしてもとれず、この日に使った装束と祭壇は、すべて捨てるしかありませんでした。

 その日の夜は、初めての事故物件の現場に衝撃を受けたせいか、悪夢を見ました。

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 死者の霊にでも取り憑かれたかのようにうなされ、「うわあああ!」という、自分のうめき声で目が覚めました。

 シャツがべっとりと汗で濡れ、鼻の中にはまだ死臭が残っていました。

写真はイメージ ©️AFLO

事故物件と向き合う覚悟

「自分にしかできない仕事かもしれない」

 壮絶な初めての事故物件のお祓いをおえ、わたしは決意をしました。

 日本では、毎年多くの人が孤独死や自殺で亡くなっています。それにもかかわらず、当時、事故物件を扱う神社や寺はわたしの知る限りありませんでした。死者を悼み、生きている人に寄り添う、それが神職のあるべき姿だと思います。

 いずれの宮司や僧侶、神父などが断るのなら、わたしがやるしかないと強く思いました。

 こうしてわたしは、照天神社のホームページの他に、「自殺孤独死物件のお祓い」のホームページを立ち上げました。

 令和4年(2022年)の自殺率は、警察庁の調べによると、2万人超。男性は女性の2倍にあたる全体の約67%をしめているそうです。孤独死は年間3万人に迫る勢いで、今後ますます増えていくでしょう。

 わたしが関わった現場でも、孤独死や自殺で亡くなるのは圧倒的に男性が多いのです。

 なんらかの理由で家族から離れざるを得なかった方、会社での過酷な労働やパワハラに疲れきってしまった方。理由は一言で語れるようなものではないと思いますが、そこには現代の社会を生きる人々の孤独を感じます。

 だれにも看取られることなく人が亡くなってしまうというのは、気の毒なことです。そういう人たちに静かに眠っていただければ、という気持ちで、現場に行っています。