今年の紅白歌合戦に伊藤蘭が出場する。伊藤の紅白出場は、「スー」こと田中好子と「ミキ」こと藤村美樹と3人で組んだアイドルグループ・キャンディーズ時代以来、じつに46年ぶりだ。今回もキャンディーズの楽曲をメドレーで披露する。

 キャンディーズは最後に紅白に出場した1977年暮れの時点で、すでに解散が決まっていた。その発表はあまりに劇的だった。この年の7月17日、東京の日比谷野外音楽堂でのコンサートで3人は突如として9月をもって解散すると宣言、人気絶頂にあっただけに波紋を呼び、このとき伊藤が発した「普通の女の子に戻りたい」は流行語にもなった。

伊藤蘭 ©文藝春秋

事務所には一切相談せず

 後年伊藤が語ったところによれば、3人はいつも一緒で今後についてもよく話し合っていたらしい。そのなかで「ある程度までやったら、それぞれの道を見つけなきゃいけない」という話もしていた。彼女たちのなかではキャンディーズとメンバー個人はあくまで別物という意識があり、《グループとしてより個人としての何かを作り上げていかなきゃいけないという思いが強かった》という(『婦人公論』1999年1月22日号)。

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 しかし、キャンディーズは多忙をきわめた。デビューする前には、プロデューサーから「3年間は頑張ろう」と言われていたが、その3年がすぎたころにシングル「春一番」がヒットし、ますます仕事は忙しくなっていった。おかげで人間関係を築くことも、世界を広げることもできず、ただ来る仕事をこなすだけの日々に不安を覚えるようになったという。そこで3人で話し合ったうえ、解散という結論に達したのだった。

 解散について3人は、発表する3ヵ月前の4月にマネージャーの大里洋吉(現・アミューズ代表取締役会長)に打ち明け、6月には所属する渡辺プロダクションにもその意思を伝えるも慰留されていたという。そこへ来ての解散宣言は事務所にはまったくの寝耳に水であった。その後、彼女たちは事務所側と話し合いを持ち、解散は翌年4月4日まで延期されたものの、結果的に受け入れられる。

反旗を翻したアイドル

 かつて「ナベプロ帝国」と呼ばれ、芸能界で権勢をふるった大手事務所に対し、所属タレントが自分たちの要求を認めさせたことは特筆に値する。日本のエンターテインメント業界で俳優・タレントが芸能事務所や映画会社など雇う側に反旗を翻し、成功を収めたケースは、現在にいたるまでほとんどないからだ。