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不眠はウィスキーを何瓶も飲ませた状態と変わらない

 長時間労働と睡眠不足は、生産性にも多大な悪影響を及ぼす。睡眠不足は能力を低下させるからである。睡眠を1日に5~6時間しかとらないことの影響は、血中アルコール濃度0.08%に匹敵する。ウィスキー3杯もしくはビール瓶2本の飲酒と同等だが、不眠であればウィスキーを何瓶も飲ませた状態で仕事をさせていることになる。これでは重大なミスを起こしかねない。

 例えば、1980年代にペルシャ湾に展開したアメリカのミサイル巡洋艦「ヴィンセンス」(下の写真)は、民間機であるイラン航空655便をイラン軍の戦闘機と勘違いして対空ミサイルを発射し、撃墜してしまった。その結果、200人以上の罪のない乗員・乗客が死亡した。ジェームス・スタヴリディス元米海軍大将は、国益の棄損につながる戦術的な決定の多くは、寝不足の指揮官によるものであると喝破しているが、まさに正論だろう。

アメリカのミサイル巡洋艦「ヴィンセンス」 ©U.S. Navy

 また、質問通告の遅れは、官僚の士気を下げるだけでなく、残業代の拡大から国家予算の観点からも国益を大きく損ねている。

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 中央官庁の集まる霞が関で働く官僚の数は約2万人。平均的な時給をおおまかに計算すると1900円である。これに25%の残業代を加味すれば約2400円となり、国会待機1時間あたり4800万円が消えていく。質問通告が21時にあれば5時間程度の残業となり、単純計算でおよそ2.4億円もの国費が1日で消えていく。さらに光熱費や帰宅タクシー代も発生する。この何ら意義のない予算こそ、本来ならば他に有効活用できるのではなかろうか。

野党議員に質問状を送ったところ

 今回、「文春オンライン」編集部が前日19時以降に質問通告をした野党議員に確認をしたところ、「事前にレクはしてもらっているので、役所に負担をかけたとは認識していない」、「全省庁が待機しているわけではないので問題はない」、「質問者と時間の決定が遅れていることに原因がある」といった反応があった。一方、「私への答弁準備で、職員の方々が深夜まで働いてくれていたとしたら申し訳ございません」と率直に責任を認める回答もあった。

23時ごろの防衛省の様子 筆者撮影

 もちろん、野党側にも斟酌すべき事情はある。国会の審議が空転してしまうと、翌日の委員会開催が土壇場まで決まらず、与野党の国会対策委員の調整によって夕方にようやくセットされるケースが少なくないからだ。その後に質問者と時間の割り振りが決まるので、質問通告は必然的に夜になってしまう。ある官僚出身議員の事務所は、「正式に委員会がセットされる前には、ルールとして質問通告ができない。このため、18時に開催が決まって、19時に質問通告をしました。議員本人は官僚出身ということもあって、不眠不休で答弁を作成する辛さは骨身にしみて理解しておりますので、普段の委員会等ではもっと早い時間帯に質問通告をしています」と内情を語っている。