金正日総書記による恐怖政治の実態は伝わってきても、庶民の暮らしぶりは依然として詳らかにされていない。たとえば女性の日常生活。彼女たちは何を想い、何に悩んでいるのか。女性脱北者の証言から垣間見える、本当の北朝鮮を取材した。(「週刊文春」2002年12月19日号)
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北朝鮮では、上流階層と“フツウの人々”の暮らしぶりに天と地ほどの隔たりがある。
ファッションも然り。
たとえば、今秋(2002年)の釜山アジア大会に現れた北朝鮮の美女応援団は、一様に長い髪が印象的だった。だが、彼女たちはあくまで例外なのだという。
許される女性の髪の長さは肩ぐらいまで
「フツウの人があんなに髪の毛を長く伸ばしていたら、資本主義かぶれといわれて取締まりを受ける。そしてバッサリ切られてしまう」
こう話してくれたのは、北朝鮮北部の中国国境近く、恵山市出身の脱北者、朴真姫さん(仮名・32)だ。
北朝鮮で一般的に許される女性の髪の長さは肩ぐらいまでだという。ただし、そう言われれば言われるほど、長い髪にしたくなるのがオンナ心というもの。
「だから、長く伸ばしてもわからないように、髪を後ろで束ねてピンで留めたり、ネットに入れたりする髪形が人気だった」(朴さん)
客室乗務員がよくやっている髪形を想像してもらえばいいだろう。
ちなみに、美容室は銭湯などがある「福祉総合施設」と呼ばれる施設の中にあるのが一般的。パーマの値段は3、4ウォン程度だ(7月の経済改革前の貨幣価値。当時のレートは1ドル=2.25ウォン)。ただし、平壌出身の脱北者、李英淑さん(仮名・42)によれば、平壌のインテリ層の間では「パーマは流行遅れ」と思われていて、ショートにする人の方が多いのだそう。
北朝鮮のパーマ液はかなり強く、皮膚がかぶれる人もいるらしい。また、カールを作るロッドも種類が少ないので、バリエーションは望めないという。朴さんが笑いながら言う。
「北では普段なかなか髪の毛をちゃんと洗えないから、パーマも落ちにくいのよ」