入浴よりも深刻なトイレ問題
ご承知のように、北朝鮮では水、電気などが慢性的に不足しており、入浴は1週間に数えるほど。ひどい時は、2週間に1度、1カ月に1度なんていうこともあったそうだ。
だから「雨をたらいに溜めて行水をするのが楽しみだった」というのは、北朝鮮東北部出身の金恵英さん(仮名・30)だ。
「雨で洗うと不思議と櫛の通りがよかったんですよ」
洗濯石鹸で髪の毛から体まで洗っていた金さんは、シャンプーを使っていた友人が羨ましくて仕方なかったという。シャンプーは外貨を持っている上流階層か、日本や米国に親戚がいる人たちしか使えない貴重品だったそうだ。
だが、シャンプーよりもっと深刻な問題があった、と李さんはため息をつく。
「何より困ったのはトイレです。平壌では水洗トイレの水が流せなくなり、悪臭が蔓延して大変だった」
李さんは、あまりにもたまりすぎた大便にがまんできず、自分で紙に包んで捨てていたという。
しかも平壌にはかろうじて水洗トイレがあるが、地方にはそれすらない。通常、10世帯に5つから6つの汲み取り式の共同トイレが集落のはずれに設置されている。
気になるのはトイレの時に使う紙。地方出身の金さんに尋ねてみた。
「新聞や昔の雑誌を破いて手で揉んで柔らかくして使っていました。それもない時は、豆の葉っぱ。時には、金日成著作集を破って使ったこともあります(笑)」
衝撃を受けた「青年学生祝典」
北朝鮮の女性に大きな影響を与えたといわれているのが、1989年に平壌で開かれた「青年学生祝典」だ。
李さんの話。
「祝典に集まった学生たちを見てものすごく驚いた。世の中にこんな洗練された人たちがいるのか、と。お化粧からファッションまですごい衝撃を受けました」
この祝典は、故金日成がやがて金正日体制を担うであろう世代の学生たちを集め、後継者固めを狙ったといわれるが、このため財政が極度に悪化したともいわれている。
この時、韓国の学生代表の1人、韓国外国語大学の学生だった林秀卿さんが38度線を越えて話題になったが、北朝鮮では彼女のファッションが大流行したのだという。
町行く女性たちは彼女を真似、前髪を短くし、肩までのセミロングにパーマをかけた。さらに、それまで半袖を着る女性はあまりいなかったのに、林さんのTシャツ姿を見てからは、みな競って半袖を着るようになったのだそうだ。