初体験の平均年齢は23、4歳
ところで、やはり気になるのは彼の国の性事情。
北朝鮮では、80年代後半に男女共学になり、89年の青年学生祝典が開かれた頃から、性への認識が大きく変わったそうだ。
青年学生祝典の時に開かれた舞踏会には、女子学生が来賓客相手に選ばれたが、来賓客の指名を受ければ、そのまま夜のお相手もしたといわれている。
李さんが言う。
「選ばれた女性たちは、外国人相手のセックスを訓練させられたという噂が立った。この頃から北朝鮮の性意識は完全に変わったと思う。人の意識が変わるのは簡単。本当に怖いくらい早かった」
北朝鮮では、性教育というものがないため、好奇心だけが先走ってしまうケースも多いのだそうだ。
彼の国の女性の初体験は、だいたい23、4歳くらいといわれているが、初体験の年齢はどんどん下がる傾向にあるという。
李さんの友人は、18歳で妊娠したが、男性が認知せず、結局、シングルマザーで子供を育てている。
「日本からの帰国者はセックスの方法が違う、という噂が立ったことがあった」と言うのは、金さん。
李さんも言う。
「体位なんかも帰国者から広まることが多い。北朝鮮では正常位が普通だけど、帰国者と不倫していた友達は、座ったままでとか後ろからとかいろいろ試したと言っていた。それを聞いた友人たちの間で大騒ぎになりました」
ストレスで奥歯が3本も抜けた
カップルで行くホテルのない北朝鮮では、野外デートが圧倒的だが、こんなこともあったと李さんが話してくれた。
「彼氏と公園でコトを致した後で、保衛部に見つかってしまい拘束されそうになったことがあります。その時、彼は逃げたい一心で『こんな女の人は知りません』とシラを切ったんです。結局、私だけが拘束されてしまった。もちろん、その彼氏と別れたのはいうまでもありません」
脱北した女性たちは、北朝鮮にいたときはとにかく自由がなかった、と皆一様に口を揃える。
「お金さえあれば、北朝鮮でもある程度のものは手に入るけれど、絶対手に入らないものがある。それは自由です」(金さん)
「政治的ストレスは凄まじかった。ストレスで奥歯が3本も抜けてしまいました」(李さん)
そんな状況下、彼女たちはなんとか現実から逃避しようと、性への好奇心を満たしたり、さまざまなジョークで現実をかわしていこうとしたのだろう。
金さんは言う。
「北にいた頃もたぶん楽しいことはあったんだと思う。だけど、韓国に来てこんな自由な社会があることを知ってしまうと、あの生活はいったい何だったんだろうという思いしか浮かんでこないんですよね」
韓国への脱北者は、今年だけで600名近くに上り、通算3000名を超えた。北朝鮮を脱出し、中国を彷徨(さまよ)っている脱北者は、2万名とも3万名(韓国統一部)ともいわれている。
(「週刊文春」2002年12月19日号)