国際社会の非難をまったく顧みない金正恩政権は、国内でも恐怖統治を続けている。
今そこに生きる人々は、どんな生活を送り、何を考えているのか――。
携帯電話を持つ北朝鮮市民を探し、直接取材を行なった。

中距離弾道ミサイル「火星12」の試射成功に喜ぶ金正恩委員長

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 国際社会の非難や制裁も顧みず、核実験やミサイル発射を強行する北朝鮮。金正恩・朝鮮労働党委員長はアメリカへの威嚇を止めず、反発を強めるトランプ大統領との間に対話の糸口は見えない。

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 北朝鮮で暮らす普通の人々は、金正恩体制をどう受け止め、現在の情勢をどう感じているだろうか。また彼らの生活は、どう変化したのか。

 中朝国境近くに住む北朝鮮市民の中には、中国の携帯電話を持つ人がいる。中国人と商売をするためだ。そんな北朝鮮市民を探し、携帯電話で直接取材を行なった。2017年9月中旬から10月下旬にかけて、高校生から60代までの男女と通話した。

北朝鮮の電話帳

 さらに今回は、首都・平壌に住む人の話も聞くことができた。選ばれた人しか住めず、恵まれた生活だと言われる平壌市民の意識や本音は、どんなものか。

 監視と密告の社会に暮らす彼らに配慮し、名前はすべて仮名とした。

戦争でも起こったほうがいいですよ

(1)ナム・ヒョンジョン(35歳・女性)

──お仕事と暮らしぶりは?

「10日ごとに開かれる市場で服の商売をしていますが、あまり売れないので辛いです。1万ウォン(実質レートで約140円)稼ぐのも大変ですよ。日本の高級服が入ってきたとき(2006年の核実験で経済制裁が始まるまで)はよかったんだけど、いまは中国服だけ。たまに韓国服も入ってきますが、売って見つかったら捕まって大騒ぎになりますからね。

 ウチの夫もそうですが、男たちは仕事がありません。“ワンワン犬”と呼ばれています。家を守っているだけ、という意味です(笑)。国は仕事をくれません。仕事をさせれば、配給をしなければなりませんからね。それなのに、税金はいろいろな名目でたくさん納めなければいけないんです。

 食糧の値段が上がって、生活はますます厳しいです。米の値段が、去年は1キロ4300ウォンだったのが、いまは5500ウォン。以前は収入がいい日は5キロ買えたけど、いまは多くて2キロ。私たちには、1200ウォンの差はとても大きいお金ですから」

──金正恩委員長について、どう思うか。

「あー(とため息)、年齢が30代だから、初めは祖国統一とか大きな変化が起こると思ったけど……。核兵器の製造は、敵も死んでしまうけど、私たちも死ぬのに、あの人がなぜあんなことをやっているかわかりません。首領様(金日成)の頃は、私たちはこんなに大変ではありませんでした」

──異母兄の金正男氏が海外で暗殺されたが、知っているか。

「うわさは聞いています。韓国の歴史ドラマを見ると王権を握るために兄弟を殺してますけど、同じようですね。怖いと思いました」

──核実験やミサイル発射のせいで、米朝間が緊張していることは?

「アメリカの奴らが死んでも日本の奴らが死んでも、戦争でも起こったほうがいいですよ。私たちは、こんなふうに死んでも、あんなふうに死んでも同じだから」

──国際社会は、中国やロシアに対して「北朝鮮への石油供給を止めよ」と言っているが?

「経済制裁を強めても、幹部たちは前と同じように暮らすでしょう。私たち百姓だけが死んでいきます」