社会主義でもなく、資本主義でもない。これが国ですか?
北朝鮮のほとんどの人は、金日成だけは主席や首領様という敬称をつけ、正日、正恩は呼び捨てにする。28歳のユ氏でさえそうなのだから、金正恩が髪型や帽子・服など祖父の真似をして「遺訓統治」をしている理由がよくわかる。
「金正恩は仕方なく地位を継承したけど、何かをやるという言葉だけで、やったことがありません。誰を撃ち殺した、という話は聞こえますけどね(幹部の処刑のこと)。我が国はいま、社会主義でもなく、資本主義でもない。これが国ですか?」
韓国で朴槿恵・前大統領の退陣を求めるロウソクデモが真っ盛りだったころ、「これが国か!」というスローガンが溢れた。まったく同じ言葉だったので、苦笑してしまった。
「社会主義というのは、国家が国民に供給をしなければならないのに、金正日のときから一度も実行されたことがありません。言葉だけです。中央放送局が今年は配給してくれると言うけど、食糧がないのにどうやって配給しますか」
──金正男氏が海外で暗殺されたが、知っているか。
「韓国のラジオ放送を通じて聞きました。それだけ金正恩が不安を感じているのでは? 金正恩の側近たちは、朝鮮時代500年をどのように統治していたか研究しているそうです。だから、兄弟の存在がもっとも危険だと思ったのでしょう」
──米朝間の緊張には、どの程度の危機感をもっているのか。
「ご存知のように、我が国はアメリカと常に対立していて、南朝鮮(韓国)とも緊張しない時期がありません。人々の意識は、慣れてしまったといえますね。『アメリカが私たちに戦争を仕掛ければ第3次世界大戦になるから、中国とロシアがそうさせないだろう』と考えています。僕もそう思います」
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(5)キム・ハンス(52歳・男性)
──お仕事や暮らしぶりは?
「(中朝国境の)鴨緑江周辺で、中国人と少し密輸をしているよ。自転車やバイクを月に200ドル分ほど持ち込んで地方に販売してるけど、最近は情勢が悪くて商売が大変だ。中国の制裁で、1リットル=1.2ドルだったガソリンが1.8ドルになった。走っている車がかなり減ったね。しかし我が国は、昔とは違う。昔は商売もできなかったけど、最近はみんなが商売しているから生活水準が上がった。金さえあれば、なんでも買えるよ。少し困窮しているだけで、食べる問題はなくなった」
中国との商売は米ドルベースで行われている。
──米朝間の危機について。
「我々は常に国民や軍隊が覚醒されていて、祖国はいま準戦時状態に入っている。いつでもアメリカの奴らと対抗する能力をもっているから、怖くないね。我が国は核を持っているし、火星12号や火星14号を発射したじゃないか。それについて矜持をもっているから、どこの国も怖くないんだ」
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戦争が起これば無条件に勝つと思っています
(6)パク・スジョン(16歳・女性・高校生)
電話をかけると、「ヨボセヨ!」とあどけない声が聞こえてきた。方言もアクセントも、北朝鮮の住民にしてはひどくない。
──核実験とミサイル発射について学校の先生はどんな話をする?
「我が国の誇りだと自慢気におっしゃっています。私自身も、かなり誇りに思っています」
──核開発にかかるお金で北朝鮮の住民1年分の食糧を配給できると言われているけど、食糧事情もよくないのに核実験するのが望ましい?
「私たちの国は弱いから、核を保有していれば強くなるんじゃないでしょうか」
──アメリカとの間でかなりの緊張状態だが、どの程度危機感を感じているのか。
「私たちは怯えないし、戦争が起これば無条件に勝つと思っています。我が国は、軍事力が強いと思うんですけど……」
外の世界の情報に接することのできない北朝鮮の高校生としては、普通の認識かもしれない。
──金正恩委員長について、親しい友達とどのように話すのか。
「父のような存在だと思います」
──悪く言う人はいない?
「なぜ悪く思うのですか?」
質問の意味が理解できないようだった。
──金正男氏が海外で暗殺されたことは知っている?
「いま初めて聞きました」
──(事件の概略を簡単に説明し)どう思う?
「過ちをしたら、罰を受けなければならないでしょう。何かが間違っていたから、元首様からそのような命令が下ったのではないでしょうか」
驚く気配もないのは、公開処刑がよくあるせいかもしれない。
──流行の物や欲しい物は?
「携帯電話です。クラスは30人ですが、5人ほどが持っています」
この通話は、知人の携帯を借りているのだそうだ。