特別警備2号が発令
(2)ソ・サンドン(25歳・男性・軍人)
国境警備隊に勤務するソ氏は、質問を始める前に「秘密保障はきちんとできますか」と確認を求めた。
──9月9日は北朝鮮の建国記念日だったが、特別な行事や上部からの命令があったか。
「特別警備2号が発令されました。核実験とミサイル発射で、情勢が緊張しているからです。勤務は3組から5組に増え、潜伏勤務だったのが巡察勤務に変わりました」
──ミサイルや核実験をどう思うか。
「核開発は自主国防と思います。核を持てば、プレゼント(経済支援や食糧支援)を贈ってもらえるんじゃないですか」
──トランプ大統領の印象は?
「軍隊内では、戦争の狂信者だと言っています」
──金正恩委員長をどう思うか。祖父・金日成、父・金正日との違いは?(この質問を聞くと、彼はため息をついて数秒間沈黙した)
「必ず答えなければいけないのですか。金日成首領様のときは、とてもよかったそうです。その後は、あまりよくありません。金正恩委員長は、金正日将軍様と似ています。たがを締めすぎています」
──最近、中朝国境では市民たちが渡江(国境の川を渡って脱北すること)しているか。
「あまりにも締めるから(取り締まりが厳しいから)脱北は難しいです。銃殺もするから、容易ではありません。私も、目をつぶって送ってやることはできません」
国境を守る警備隊の兵士は、川を渡って脱北する人々を見逃す代わりに謝礼金を受け取ってきた。それができなくなったので、「来年には除隊するのに、お金がない」とソ氏は言った。
アメリカの犬豚野郎
(3)チェ・ウンシル(55歳・女性)
「私は主婦です。夫は自動車の運転手です」
──核実験やミサイル発射をどう思うか。
「テレビで見ましたけど、とても嬉しくて素晴らしいことですよ。私たちは、金正恩元首様のお言葉通りに従います」
──核開発の費用で食糧配給をしてくれたほうがいいとは?
「家で家事をする者は、そんなことまで考えていません」
──アメリカと北朝鮮の間で、緊張が高まっているが……(ここまで話すと、まだ質問が終わっていないのに、彼女は声のトーンを高めて興奮しながら、アメリカの悪口を言い始めた)。
「アメリカは本当に悪いヤツです。私の前にいたら、ズンと踏んで殺したいです。おばさん同士で『アメリカの犬豚野郎ども』と話します。戦争したって、我々はびくともしませんよ。金正恩元首様がいますから、心配ありません。だから私たちは、市場に出て商売して食べていくことだけに神経を使っています」
北朝鮮政府の「我々が困窮するのは、すべてアメリカの経済制裁のせいだ」という宣伝が、浸透しているようだった。
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(4)ユ・ヨンス(28歳・男性・大学3年生)
──学校生活の様子は?
「いま(9月下旬)は農村戦闘期間中です。秋の収穫と脱穀のために40日間、動員されています。学校で必要なお金は、中国の人と物々交換しながらちょっと儲けています」
──核実験やミサイル発射について、学校ではどう話しているか。
「教授らは微妙な部分なので言及しませんけど、学生たちの意見は2つに分かれます。賛成する人が60%程度でしょう。軍隊生活のあとに大学に入った人たちは、社会生活を知らないから誇りをもっています。気の毒ですね。僕たちはイライラしますよ。ミサイルを発射しても飯が出てくることはないし、利益にならないから。気が合う友達同士で集まると、否定的に話します」
──友達同士で、金正恩委員長についてどう話すか。
「ご存知でしょうけど、金日成首領様から繋がっている偶像化を、金正恩がやろうというんですよ。首領様のときは少し業績もあったけど、金正日が完全に台無しにしてしまった。金正日は、自分だけ1万ドルのワインを飲んで、我が人民はたくさん飢え死にしたじゃないですか」