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紫式部は世紀の天才!
――紫式部自身、夫を早くに亡くして宮仕えをし、『源氏物語』を書いた。その人生が作品世界を深くしていると思いますが、他に紫式部の才能はどこにあると思われますか?
木村 とにかく小説的に大冒険をしているところです。どのパートが最初に書かれたのか、どの順序で書かれたのか、真相はわからないのですが、五十四帖という長大な物語の中に緊密に伏線が張られて、それがすべて回収されていく。二十五帖の「蛍」には光源氏と玉鬘が物語談義をする有名な場面がありますが、そこでは紫式部の思いを仮託したような、近代小説を先取りするメタ物語論も展開されています。一条天皇をはじめとして、物語の続きを楽しみに待つ宮中の読者を抱えながら、緊張感ある中でこんな企みができた人は紫式部以外にいないし、現代の小説家たちも、同じようにその才に打たれるんだと思います。
やっぱり世紀の天才なんですよね。そして世紀の天才の作品を読まない手はありません。といってもそれはプルーストの『失われた時を求めて』やトルストイの『戦争と平和』を読まない手はないと言うのと一緒で、多くの人は読み通せないかもしれないけれども、実は家の本棚に置かれていたり、いつかは読み通したいと思っている類の本だと思います。