聞くべきか、聞かぬべきか。ハムレットの心境。私はしばらく橋本夫人と楽しく和やかに話を続けたのち、タイミングを見計らって、「あのー」と勇気を振り絞って切り出そうとした、そのとき、察しのいい夫人は、すかさず小指を立てて、
「これのこと?」
お茶目に笑うと、
「だっていちいち気にしていたらどうなるの? 私も(主人のことを)別にカッコ悪いとは思ってなかったから、モテるのもわかるし……」
と。さらに、
「『お宅のご主人イカさないわね』って言われるより、いいじゃないですか」
そのお言葉が本心であるか、あるいはメディア用に毅然と対応しようと思って発言なさったか。真意のほどはわかりかねますが、少なくとも見るからに明るく、あっけらかんとおっしゃってくださったので、その瞬間、私はすっかり橋本夫人のファンになってしまいました。
その後、さらに親しくお付き合いさせていただくようになり、今でもときどきお会いする機会がありますが、そのざっくばらんぶりはまったくもって変わることがありません。
そんな橋本夫人の気さくなお人柄のおかげもあって、初対面にもかかわらず「聞きにくい質問」をなんとかクリアできたわけですが、もし私が「初めまして」と挨拶をしてすぐに、
「まずは、あの女性スキャンダルについて、見解をお聞かせください!」
そんな質問をしたら、橋本夫人もきっと「なんだ、こいつは。イヤな感じ」と警戒なさったことでしょう。そこはさすがに私も、しばらく会話を重ねた末に、「こんな率直で気取らない方なら、聞けるかも」と判断して、踏み込んだのです。
その後、週刊文春に掲載された橋本夫人との対談記事では、編集の都合により、あたかもお会いしてまもなく失礼な質問をしたかのように構成されておりましたが、実際は、対談時間のほぼ終わり近くに持ち出した問答です。
なんてね。別に自分の手柄を誇りたいわけではなく、つまりはしばらく様子を観察した上で、相手との適切な距離感を測ることは大事だと言いたいまでです。この方となら、これくらいの距離まで近づいても大丈夫だぞと思ったら、話せることが一気に広がる場合があるのです。
逆に、自分は相手のことが大好きだし、だからこそ嫌われるはずはないと思い込んで、あるいは大好きだからこそ近づきたいと思う気持が強すぎて、最初から「ずっとファンでした! あなたの映画もドラマもぜんぶ観てます! 本も買いました」などと、思い切り前のめりになっていくと、相手はたいていの場合、引きます。それは対談やインタビューに限ったことではありません。友だちになりたいと思って、自分の熱い思いを伝えようとグイグイ迫れば迫るほど、警戒される結果になるでしょう。
また一方で、大好きだけど、きっと親しげに語りかけたら嫌われるだろうと怖れて、目も合わさず、下を向き、口も利かず、そっぽを向いているような態度を取り続けるのも問題です。相手は、この人は自分に関心がないんだなと判断し、それなりの会話しかしてくれなくなるでしょう。
そういう意味でも、その都度、様子を窺って、心地よい距離感を臨機応変に見つけることができたら、会話は自然に打ち解けていくと思います。