「僕の身に起こってもおかしくなかった」
石丸の同級生・吉永卓(仮名)は、同じサッカー部にいたことがあり、奥田が担任だった4~6年時のクラスメートでもある。小学校卒業直後に引っ越したため、石丸とは卒業以来連絡を取っていなかった。
しかし旧友の事情を知った吉永は、迷わず、裁判で証言することを厚子に快諾した。
彼は厚子にこう伝えた。
「この件は僕の身に起こってもおかしくなかったと思います。そして僕には4歳の娘がいますが、我が子に同じことが起こったらどうなるかと想像するだけで恐ろしいです。幸せな家族の時間がこんな形で壊されて、どんなに辛いお気持ちで過ごされてきたか……」
2023年1月。東京高裁の法廷の証言台に、吉永が進み出た。会社の半休を取って駆けつけたダークスーツ姿の39歳は、裁判長の正面に立つと背筋を伸ばした。
吉永の右2メートルほど離れた席に座る奥田は、教え子の姿を一瞥もせずに体を揺らしている。吉永が真実を述べる旨の宣誓をする時だけ、メガネをかけてちらっと見やった。
最初は原告側である今西からの主尋問だった。
今西「奥田教諭はどのような先生でしたか」
吉永「優しくもあり厳しくもあり、私としては楽しい時間を過ごさせていただいた先生だったと思います。ただ、今の時世からすると体罰に該当するような行為もあったと思います」
吉永は「『もみじ』をされたことがありますか」という今西の問いに「はい」と答えた。自身の他に、もみじをされていた記憶のある子として複数の男児の名を挙げ、今西が示した卒業アルバムの写真を指差していった。奥田は俯いている。
さらに、奥田から「寝そべり出っ歯」と身体的特徴をあげつらったあだ名を付けられたことに言及した。教室でおもらしをした別の男児のことは「おちょねんパンパース」と呼んでいたことも。
石丸については「実際よくケガをしていたことは記憶しています」。奥田との関係について思い出せることはなく、膝の上に乗せられていたことは「言われてみればあったのかなという程度のぼんやりとした記憶でしかないです」とした。
ただ、自身の経験として覚えていることをさらに三つ挙げた。
「車で送っていただいたことがあったかなと。ステーションワゴンだったように記憶しています」
「在学中に何名かでご自宅に食事に行ったり、卒業前後に遠出をしたりしました」
「飯能のアスレチックあたりに連れて行っていただいた時に、コンビニでお酒を買っていただいて飲んだとも記憶しています。ウメッシュです。帰宅後に親に伝えて叱られました」
いずれも奥田の一審での証言を覆す内容だった。
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本記事の全文、および秋山千佳氏の連載「ルポ男児の性被害」は「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
■連載 秋山千佳「ルポ男児の性被害」
第1回・前編 「成長はどうなっているかな」小学校担任教師による継続的わいせつ行為《被害男性が実名告発》
第1回・後編 《わいせつ被害者が実名・顔出し告発》小学校教師は否認も、クラスメートが重要証言「明らかな嘘です」
第2回・前編 中学担任教師からの性暴力 被害者実名・顔出し告発《職員室で涙の訴えも全員無視》
第2回・後編 《実名告発第2弾》中学担任教師から性暴力、34年後の勝訴とその後「ジャニー氏報道に自分を重ねる」
第3回・前編 《実名告発》ジャニー喜多川氏から受けた継続的な性暴力「同世代のJr.は“通過儀礼”と…」
第3回・後編 《抑うつ、性依存、自殺願望も》ジャニー喜多川氏による性暴力 トラウマの現実を元Jr.が実名告発
第4回・前編 「なぜ今さら言い出すのか」性被害を訴えた元ジャニーズJr.二本樹顕理さん 誹謗中傷に答える
第4回・後編 「ジャニーさんが合鍵を?」元Jr.二本樹顕理さんを襲った卑劣な“フェイクニュース”
第5回・前編 「性暴力がなければ障害者にならなかった」41歳男性が告発 小学3年の夏休みに近所の公衆トイレで…
第5回・後編 《母は髪がどんどん抜け、妹からは「キモい」と…》性被害後の家族の“拒否反応”の真実 41歳男性が告白
第6回・前編 目の前で弟に性虐待を行う父親 「ほら見ろよ」横で母親は笑っていた《姉が覚悟の実名告発》
第6回・後編 「絶対に外で言うなよ」父親の日常的暴力と性虐待の末に29歳で弟は自殺した《姉が実名告発》
第7回・前編 NHK朝ドラ主演女優・藤田三保子氏が“性虐待の元凶”を実名告発「よく死ななかったと思うほどの地獄」
第7回・後編 「昔、兄にいたずらされたことが」塚原たえさんの叔母、藤田三保子氏が“虐待の連鎖”を実名告発
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