――映画では後に区長になる岸本聡子さんが街頭演説をする横でビラ配りをしていましたが、なぜ急にそんなことになったのでしょう?
ペヤンヌ 自分でもびっくりです。もともと政治はあんまり関心がなくて、選挙は義務感で行くけど直前に選挙公報を見て決める、ぐらいの感じでした。立ち退きの話を知って、調べてみたら、今の区長が道路推進派ということがわかり、次の区長選挙で区長を変えなければと思うようになりました。そんな時に岸本さんが立候補予定者となり、都市計画道路への反対を公約にしてたんです。その岸本さんのキックオフ集会に行ってみたのがすべての始まりです。
――「私の家を残してくれる候補者」が岸本さんだったんですね。それまで政治と距離を取っていたペヤンヌさんが、市民集会に行くことに抵抗感はなかったですか。
ペヤンヌ 抵抗はなかったですね。自分の暮らしの危機という切実な状況でしたし、知らない世界に飛び込むのは好きなんです。あとはコロナ禍の時に(選挙ライターの)畠山理仁さんの『コロナ時代の選挙漫遊記』(集英社)を読んで、選挙って面白そうだなと思っていたのもあります。でも「そっちへ行っちゃったの?」って心配する友人もいました。
――「そっちへ行っちゃった」という言い方はわかる気がします(笑)。政治に興味と聞くと、ついSNSで見かける極端な人たちのイメージが今は強いですし。
ペヤンヌ ネットだけが情報源なのって危険だなっていうのも今回すごく感じたことですね。私も杉並区のことを最初はネットで調べたけどよくわからなくて、集会に参加してみてやっと色んなことがわかったんです。
「なんかちょっと違うぞ」と思った方もいたかもしれませんが
――「ブス会*」の演劇は女性同士の嫉妬心とか自己肯定感とか個人の内面の話をしていたので政治はすごく遠い世界かと思っていました。
ペヤンヌ 案外そうでもなかったんですよね。道路問題をテーマにした演劇も作りました。道路建設予定地の当事者の方にインタビューして、それを元に。ブス会を観に来てくれる方は女性同士の人間関係を描いた会話劇などを期待している方も多いので、「なんかちょっと違うぞ」と思った方もいたかもしれませんが、想像以上に面白がってもらえてほっとしました。
――意外と受け入れられたんですね?
ペヤンヌ 道路が拡幅されたら立ち退きになってしまう劇場で上演したんですよ。なのでお客さんは演劇が終わって駅まで帰るときに「この道が工事されて劇場が無くなっちゃうのか」って思いながら帰ることになる。行きと帰りで風景の感じ方が全然違うという体験をしてもらえたらと思って。