30年後に明らかになったこと
ポン・ジュノ監督は、『殺人の追憶』を作るに当たり、犯人分析をかなり入念に行ったと言われている。その結果「犯人はきっとこの映画を見に劇場へやってくるはずだ」と考えた。
映画は、事件を追っていたソン・ガンホ演じるパク刑事の9秒にも及ぶカメラ目線からのフェードアウトでエンディングを迎える。これは、映画館に座って映画を見ているかもしれない犯人と、スクリーンの中のパク刑事とが見つめ合うことを計算しての演出だったそうだ。
実際に、2020年11月法廷に出廷したイ・チュンジェは「刑務所内でこの映画を見た」と発言している。ポン・ジュノ監督の思い描いていた通り、ラストカットでは犯人を追う刑事と真犯人が、映画と現実の垣根を超えて対面した形となった。
三大未解決事件の一つが解決したとなると、残りの2件の解決も期待されるところだが、残念ながらこちらはまだ未解決のままである。
(2)犯人から60回もの脅迫電話が…「イ・ヒョンホ君誘拐殺人事件」
「イ・ヒョンホ君誘拐殺人事件」は、2007年に『あいつの声』というタイトルで映画化。日本では2011年に公開された。
1991年1月29日の夕方、ソウルの小学校に通っていた3年生のヒョンホ君は、アパートの前の公園で誘拐されてしまう。そして、同日夜の11時、自宅へ京畿道訛りのある男から身代金を要求する脅迫電話がかかってくる。
映画のタイトルが「あいつの“声”」であるように、犯人はヒョンホ君の両親に対して執拗に電話をかけており、それはなんと44日間で60回以上も続いたという。
犯人との電話交渉や身代金のやり取りなど数回行われたものの、3月13日、両親の願いもむなしく排水溝にてヒョンホ君の遺体が発見されてしまう。警察の発表によると、死亡時刻はなんと誘拐された直後であり、犯人はヒョンホ君を生きて返す気のないまま、脅迫電話をかけ続けていたこととなる。