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400年間、海の向こうから来た為政者が支配

 庶民の視点に立って書かれた台湾通史の決定版として読み継がれている『台湾人四百年史』は、史明が『新珍味』で執筆し、1962年にまず日本語書籍として刊行された。オランダ、鄭氏政権(明朝遺臣の鄭成功)、清朝、大日本帝国、中華民国(中国国民党政権と蒋介石、蒋経国)と400年以上にわたって差別と搾取を受け続けた台湾人の苦難と闘争を活写し、台湾の人びとが「自分は中国人の一部ではなく、台湾人なのだ」と覚醒する大きな原動力となった。

題字は武者小路実篤が揮毫 ©田中淳

 そもそも「台湾独立」がなぜ必要なのか? 台湾を「事実上の独立国家だ」とする見方もあるが、日本の植民地統治が終わると、中国大陸から蒋介石と中国国民党政権が侵攻し、外省人(中国人)による台湾支配が最近まで続いた。

 いくら民主化が進んでも、台湾の国家システムは今も外来の「中華民国」を引き継いだままで、国名も依然として「中華民国」だ。しかも台湾は自国の一部分と主張する「中華人民共和国」との対立から、台湾が国家として外交承認されず国際社会から閉め出されている状態が現在も続いている。虎視眈々と台湾を狙う中国に呑まれる前に、「中華民国」という不正常な状態を是正し、真の独立を果たさなければ未来は無いというのが、史明や台湾独立派の考えなのだ。ただ皮肉なことに、台湾の独立も中国との統一も選ばない中途半端な「現状維持」状態が長年、台湾の平和を支えてきたとも言える。

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風呂場に設けたかまどで火薬を調合

 暴力を手段とする武力革命も辞さない台湾独立を目指していた史明が、1960~70年代、『新珍味』でこっそり時限爆弾を自作していた事実も、台湾史を語る上で欠くことができないポイントだ。

 5階の浴室にレンガを積み上げてセメントで固め、「墓亀(亀甲墓の墓室)」と呼ばれるドーム状のかまどを作った。そして、理系留学生や日本赤軍メンバーの助言を受けながら硝酸カリウム(硝石)、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、爆薬火薬などを調合し、混合・加圧・粉砕などの工程を丹念に繰り返して、小規模な爆発実験を続けた。

史明が作ったかまどの復元模型。台湾の「史明文物館」に展示。 ©独立台湾会/史明教育基金会

 史明は「台湾主戦場在島内(独立革命の主戦場はあくまで台湾本島だ)」を標榜しており、自作した時限爆弾や爆弾の材料を台湾へ帰国する同志に託して、軍用列車を転覆するなど「都市ゲリラ戦」と称するテロを支援していたのだ。

 ちなみに日本では当時も今も、自家製の爆弾、火炎瓶、火薬などを所持していた場合、それらを実際に使わなくても「爆発物取締罰則違反」(製造、所持)や「火薬類取締法違反」(製造、所持)などで逮捕される。

 札幌市の諏訪博宣被告は2022年、自宅マンションでいずれも手製の黒色火薬、高殺傷能力の爆発物「ヘキサメチレントリペルオキシドジアミン(HMTD)」、鉄パイプ銃を所持していたとして「爆発物取締罰則違反」の罪に問われている。